「老後資金の準備」で後悔する人、しない人

 

なぜ資産運用の必要があるのでしょうか。おそらく、多くの方は漠然としたイメージしか持っていないのではないでしょうか。

 子供の教育費、住宅購入費、自動車購入費、その他にもさまざまな理由はあると思いますが、それらをひっくるめて、最終的な資産運用の目的は、自分自身の老後に必要なおカネを作ることにあるのではないかと思う次第です。「老後の生活に必要なおカネ」といっても、30代や40代前半の人たちにとっては、まだ今ひとつ現実味がないと思います。おそらく、今の50代、60代の人たちも、若い頃はそうだったのでしょう。

 でも、自分自身が50代になってみて、初めて気づくことがあります。それは、「もっと早くから老後資金の準備をしておけば良かった……」ということ。老後の資金準備といっても、ただおカネを貯めるだけではダメです。なぜかというと、インフレになった時に資産が目減りする恐れがあるからです。

■ インフレ下の低金利という歪んだ状況も

 今、30代の人が60歳になった時を想定して老後の資金を作ろうとした場合、20年から30年という長期にわたっておカネを貯める必要があります。この間、もしもインフレが進んだら、資産の実質的な価値が目減りする恐れもあります。

 基本的に物価が上がれば金利も上がるので、預金にしておけば十分にインフレヘッジができると考えている方もいるでしょう。確かに、それが事実だった時代もありましたが、これからはその事実が通用しなくなるかもしれません。金利が上昇すると、1000兆円にも達する政府債務の利払いが巨額になり、ますます債務返済が進まなくなる恐れがありますし、インフレが進めば相対的に債務の負担が軽減されるので、日銀は簡単に利上げには踏み切らないでしょう。

 かくして、インフレ下の低金利という、歪んだ状況が作り出されるおそれがあるのです。当然、そうなったら、預貯金ではインフレリスクをヘッジできなくなります。だからこそ資産運用が必要になるわけですが、問題は何で運用すれば良いのかということでしょう。

 最も確実な方法は、10年物変動金利型の個人向け国債を買うことです。現在の金利は0.05%ですが、それでも定期預金の0.01%に比べれば有利です。ただ、それではなかなか資産が殖えないので、少しでも高いリターンを狙うなら、株式やFX、投資信託などを活用します。

 

不動産は?株式は?

 最適なポートフォリオはどうなのか、という点を気にする人もいると思いますが、私はとにかくどれでもやってみることをお勧めしています。正直なところ、どの金融商品がインフレに強いかなどというのは、はっきりとは言えないからです。

 たとえば不動産。かつてはインフレヘッジの王道などと言われましたが、それは不動産バブルの頃の話です。当時、日本は国土が狭いので、どんどん土地不足になり、地価は無限に上昇するなどと、本気で思われていました。でも、今はどうでしょうか。

 日本は人口減少社会になり、土地のニーズは今後、徐々にではありますが後退していくでしょう。大都市の一等地は地価が上昇しても、地方は安いままに放置されているなどという風景は、ここかしこで見られます。土地を持ってさえすればインフレリスクをヘッジできるという時代は終わったのです。

■ 最終的にインフレに勝てば良い

 株式もそうです。株式がなぜインフレに強いのかを理屈っぽく説明すると、インフレによって物価が上昇すると、企業の名目の売上や利益がかさ上げされ、それを株価が織り込みに行くため、株価が上昇する、ということになるのですが、すべての株式にそれが通用するわけではありません。

 インフレが進むなかでも業績が良くならない企業は当然あります。そういう企業の株価は、いくらインフレが進んだとしても、おそらく値上がりしないでしょう。東京証券取引所だけでも、上場されている企業の数は3526社にも上ります。その株価が、「インフレ」という単独の材料だけで上昇するのは、現実的にも考えにくいところです。

 このように考えていくと、ますます何がインフレに強い資産なのか、分からなくなってきます。なので、とにかく何でもやってみれば良いという結論に達します。ちなみに私は、株式もFXも個人向け国債も、そしてネット銀行の定期預金も含め、いろいろなものにおカネを分散させています。全体で見た時に、最終的にインフレに勝てれば良いという発想で、個人資産を運用しています。

 特に若い世代の人たちは、どの資産運用が自分に合っているのか、まだ分からないでしょうし、仮に失敗したとしても、損失を取り戻せる十分な時間がありますから、なおのこと、いろいろな投資にチャレンジした方が良いと思います。

 

 

東洋経済オンライン 8月23日(火)