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65歳から稼ぐ人、稼げない人

 

生き甲斐のため、生活のため……一生涯、仕事を続けるにはどうしたらいいか。定年後、納得のいく働き方を手にした5人の生き様から、現役時代に準備すべきことが見えてきた。

 ※年齢は2015年10月10日時点

■「とにかく笑顔」で価値観が覆った

 外資系・太陽光発電所建設企業でディレクターを務める有賀守昭氏は、今65歳。大手ゼネコンを早期退職したのが2005年6月、55歳のときだ。常にヘッドハンティングされる形でいくつか職場を変わり、現在在籍する会社で6社目になる。

 「私の職業人生のなかで、定年とか再就職を考えたことは一度もありません。ずっと面白いことにチャレンジし続けたい。その想いは40代の頃から変わっていません」

 慶應義塾大学工学部出身の有賀氏は技術者としてキャリアをスタート。医薬品、食品、半導体工場の設備設計から施工までを一貫して手がけてきた。とりわけ際立つキャリアが、社長賞を受賞した有名アミューズメントパークでのアトラクションの開発だ。

 「プロジェクト開発リーダーとして日本とアメリカ両国数十人の技術者をまとめての仕事でした。アメリカ側との折衝のため東京とロサンゼルスを何度も往復。5年間かけてブラッシュアップを重ね、何とか現在の形になりました。総工費は約400億円近くでした」

 そんな有賀氏に転機が訪れる。法人営業への異動だった。

 「上司から笑顔の大切さを徹底して叩きこまれました。それまでのエンジニア時代には、技術的に無理な要求は無理と、毅然と断るタイプだったのです」

 営業の現場では「とにかくにこやかにイエスで始めろ。最初からノーとは言うな」が鉄則だった。有賀氏は言う。

 「およそ5年間の営業部時代を経て、自分の世界が広がった気がしました。取引先も薬屋さんだったり電子楽器屋さんだったりバラバラ。そのなかで僕が得た最大の教訓は、どんな仕事、相手でも『誠意を持ってやる』ということ。たとえトラブルが起こっても、相手が『仕方ないか』と思ってくれるまで、誠心誠意向き合うことでした」

 現在、有賀氏はピーク時には早朝から出かけて帰りが夜遅くなることも珍しくないという。生涯現役で働くためには何が求められていると思うか? 

 「業種によって期待される働き方は異なります。資格も、若い頃に宅地建物取引主任者、高圧電気工事士、2級建築士、英検2級などを取得しましたが、実際に使えたのは運転免許くらい。でもそれだって今の時代、カーナビを使いこなしたり、目的地に着けばスマホで情報を取ってというほうが大切でしょう。結局、ITを使った機動力、それが一番重要なのかなと思うんです」

 ▼有賀氏の経歴
1972年:慶應義塾大学工学部卒業大手ゼネコンに入社
2005年:同社を退職NY上場投資銀行に入社
2006年:同社を退職以降、転職2回と起業立ち上げにかかわる
2014年:カナディアン・ソーラー・プロジェクト(当時はカナディアン・ソーラー・ジャパンプロジェクトビジネス本部)に入社

 

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■60歳で社会保険労務士の受験を決意

 現在の積み重ねが自然と再就職につながっていく一方、定年後のビジョンを明確に描き、第二の人生を自らの手で切り開く人もいる。

 寺尾勝汎氏が難関の社会保険労務士試験に合格したのは61歳のとき。東京大学を卒業して、丸紅に入社。カナダやイギリスでの海外勤務はあったものの、ほとんどのキャリアを財務、経理、人事といった中枢部門で過ごす。

 「結局、私は人事労務の仕事を四半世紀やったことになります。一生やるなら人事労務の仕事かな、と40代後半から漠然と意識していました」

 54歳のときに関連会社の丸紅畜産の役員として出向。そこでの経験が寺尾氏のその後を決定させた。本社時代と違い、さまざまな決済を一案件ごと入念にチェックする必要に迫られた。

 「どんな小さな伝票の裏にも、ちゃんとした法的な根拠があることを知りました。それをひとつひとつ、学びながら理解して決済していくことが、たまらなく面白くなってしまったのです」

 こうして監査役に就任した60歳のとき、社会保険労務士の受験を決意する。しかし、1度目は3カ月弱の準備しかできずに不合格。寺尾氏は「なめてかかったのが失敗だった」と反省し、心機一転、猛勉強の毎日を送ることに。

 平日は夕方6時に勤務が終わると資格受験の大手予備校に直行し、9時過ぎまで講義に集中。それだけでは物足らず、個人経営の教室にも通った。土日ともなれば、朝から晩まで過去問や予備校の問題集と向き合った。模擬試験の結果は、常に上位に名を連ね、それがまた励みにもなったという。

 テキストにあることは完璧に理解したうえで暗記。法律条文等を書き写しながら、声に出して読み上げる。

 「若い頃と違って、なかなか暗記はできません。ですから、ひたすら書いては音読です。もう夢中になって音読するものだから、妻からは『馬鹿なことを呪文みたいに唱えないで』と言われる始末。東大を受験したときよりも、はるかに集中して勉強したと思います」

 その甲斐あって、寺尾さんは2度目の受験で合格を勝ち取る。定年後は、間を置かずに都心に家賃15万円の事務所を構えた。現在は顧問先も10以上に増え、土日も出勤しては仕事三昧の日々。そんな寺尾氏にとって、第二の人生を託した仕事へのモチベーションとは、いったい何なのだろうか? 

 「生活費の一部を稼ぐためという動機だと続かないと思うし、面白くないでしょう。やっぱり、自分の知識や知見が世の中のお役に立っているんだという実感、これに尽きます」

 ▼寺尾氏の経歴
1964年:東京大学教養学部卒業丸紅に入社
1972年:財務、経理、人事部を経験
1996年:丸紅畜産常務取締役に就任
2001年:同社を定年退職/社会保険労務士を取得
2002年:開業

 

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■エンジニア一筋から奉仕活動の道へ

 埼玉県で社会福祉士事務所を営む永田充氏は還暦の誕生日、「これからは福祉の道を目指す」と家族に告げる。東北大学を卒業して勤めた日産ディーゼル工業ではエンジニア一筋。まさに180度違う異分野への転身となる。

 でも、なぜ福祉なのか? 

 「実は若いとき、中卒の若年社員を教育・育成するために社内にボーイスカウト活動が組織化され、私がリーダーを務めていたのです。正確にはシニアスカウトですね。研修として課外授業のキャンプをはじめ、障がい者施設や老人ホームなどの慰問をしていました。社会的な奉仕活動をするのは初めてだったのですが、慰問を続けていくうちに、ふと自分は50歳を過ぎたらどんな人生を歩めばいいのか自問するようになったのです。奉仕の精神に目覚めるきっかけとなりました」

 永田氏の決断は早かった。介護を必要とする人のサポートをしよう、そのためにケアマネージャーになろう、と。

 だが現実は厳しい。ケアマネージャーの受験資格を得るためには社会福祉士の資格を取得し、所定の施設で5年間の経験を積まなければならない。永田氏は東京福祉大学の通信教育を受講、指定科目を履修する。理系の永田氏にとって、心理学や社会保障原論、介護概論など19もある試験科目のほとんどは門外漢。放送大学の図書館に通って、コツコツ勉強するしか合格は望めなかった。こうして勉強をはじめてから3年後、資格取得を果たす。

 「年齢的にも後はないですから必死でした。合格したときに年齢別に合格者数が発表されたのですが、約3500人のうち60歳以上はわずか12人。胸をなでおろすと同時に、何としてもこの資格を無駄にしたくないと思い、これまでの人脈を駆使して就職活動に励んだところ、在宅介護支援センターの相談員の職員に採用が決まりました」

 社会福祉士としての実務を重ね、5年後にはケアマネージャーに合格。その後、特別養護老人ホームに赴任し、さらに実務を学ぶ。こうして06年に自宅に事務所を開いた。

 だが、ここでも転機が訪れる。日本の福祉の現場には課題が多い。本当に救済が必要な身寄りのない認知症の高齢者や障がい者にまで手が届かない現実を知る。永田氏は、職業生活の最後に何をするべきか、終着点を見つけ出す。それこそが、家庭裁判所から選任される「成年後見人」にほかならない。

 「この仕事は、社会的弱者といえる彼らの生命と財産を守る代理人です。徹底的に寄り添う責任があるので、年中無休で24時間対応できるようにしなければならない。『危篤です』と夜中の3時に電話がかかってくることも。辛いことも多い。今まで看とったのは10人。お墓を探し、納骨まで携わることもあります。次なる目標は、後輩の育成と地域の高齢者問題の解決です」

 努力を惜しまず自らを変革し、眼前の課題に挑戦する――。なぜ、そんなアグレッシブな行動をとれるのか? 

 「こうして70代にやりたい仕事ができるのも、60代のとき、今を疎かにしなかったから。同じことが50代、40代でもいえると思います」

 ▼永田氏の経歴
1957年:東北大学工学部卒業日産ディーゼル工業入社
1998年:同社を定年退職社会福祉士を取得
2004年:介護支援専門員(ケアマネージャー)を取得
2006年:成年後見人になる事務所を開設

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■勤め上げた古巣に派遣社員として戻る

 現役から定年後まで、「生涯一社」に勤め上げる人生もある。清水均氏はシニア専門の人材派遣会社である高齢社に登録し、かつて在籍した古巣のキャプティに出向する。

 「定年退職するとき、キャプティ本社に挨拶に伺いました。そうしたら昔から知り合いの部長さんに『清水さんこれから何するの? 』と聞かれ、『どこかで働こうと考えています』と答えたら、『高齢社から出向という形でまたやってくれないか』と言われ、今に至ります」

 同社に高卒後入社した際、清水氏が最初に配属されたのは工事部門。一般道路に埋設された都市ガスの本管から家庭に配管することが主な業務だった。次に、レンジや給湯器などの家庭用ガス器具の販売に移る。35歳で営業主任になり、44歳のときに営業所長を任された。ここで清水氏は、営業の最前線を司る中間管理職にとって、もっとも重要な資質とは何かを思い知る。

 「結局、コミュニケーションをどうとるかです。頭ごなしに指示を出すのでは人間関係も仕事も上手くいきません。相手が何を考えているか、掘り下げて『言いたいことはこういうことか』と突っ込んで聞くようになりました。営業というのは、相手の頭の中に夢を植えつけるような仕事。社外の取引先に対しても感謝されるためにはどうすればいいか、どうしたらもっと喜ばれるか、いつも考えるようになったのです」

 そんな清水氏は、月に約25日もフルタイムでの勤務を任せられるほど、古巣の出向先から頼りにされている。勤務する営業所が設備を納入するハウスメーカーの新築住宅のイベントがあれば、率先して手をあげ、進行がスムーズに行くよう裏方を手伝う。終了後には年下の同僚スタッフから「清水さんのおかげで無事終わりました」と肩を叩かれるのが何よりの励みになるという。定年期を迎えた後輩たちからの相談もしょっちゅうだ。

 「なかには向上心のない者もいます。そんな後輩には、『甘えるな!  65歳まできっちり勤め上げろ。そうしなければ、先は開けないんだぞ』と、思わず発破をかけてしまいます」

 ▼清水氏の経歴
1965年:帝京高校土木科卒業関東配管(現・キャプティ)に入社
2012年:同社を定年退職後、高齢社に入社キャプティ住宅設備部に出向

 

 

 

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キャリアを捨てる働き方──定年シニアが生き残るには

 

キャリアを捨てる働き方──定年シニアが生き残るには

 

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退職金の受け取りは「一時金」と「年金」どちらがトクか

 

● 運用率2%なら「年金」が 断然おトクに見えるはずが…

 年度末が近づいて、3月いっぱいで定年退職する人の相談が相次いだ。多くは、60歳以降の収入ダウンに備えた収支の見直しや生活設計であるが、今年は「退職金の受け取り方法」についての相談もあった。

 サラリーマンの退職金の受け取り方法は、「一時金のみ」「一時金+一部を年金」「すべて年金」などいくつかのパターンがあるが、これらのパターンを選択できるかどうかは勤務先により異なる。

 「年金」を選択すると、退職金原資が受け取り期間中も引き続き運用されるため、受け取り総額は「一時金」よりも多くなるのが一般的だ。運用率は企業によって異なるが、最近は1~2%程度のようだ。マイナス金利政策の状況下では、銀行の定期預金に比べてはるかに魅力的に映るため、選択の自由があるなら「年金」で受け取りたいと考える人が多い。

 たとえば、勤続38年の人が退職金2000万円をすべて一時金で受け取ると、手取り額は2000万円となる。退職金一時金の課税方法は、勤続年数に応じた「退職所得控除」というみなし経費を差し引くことができるうえ、他の所得と分けて税金計算をするので、他の所得に比べて納税者に有利な計算方法といえる。勤続38年だと退職所得控除が2060万円になるため、所得税・住民税はかからず、額面=手取りとなる。

 一方、運用率2%の「10年確定年金」を選択すると、60歳から69歳までの年金額は約221万円。10年間の受け取り総額は約2210万円なので、単純計算すると、「一時金」よりも「年金」のほうがおトクに見える。大多数の退職者は「60歳で2000万円を一時金で受け取っても、自分で2%の運用はできない。年金受け取りがトク」と判断する。

 今のご時世、「自分で2%の運用はできない」と考えるのは正しい。しかし、退職金の「年金受け取り」は雑所得として給与や公的年金と合算して課税されるため、所得税・住民税はもちろんのこと、国民健康保険料や介護保険料もアップする。つまり、必ずしも「年金」がトクとも言い切れないのである。

 

● 「全額一時金受け取り」の 手取りが最も多くなる!

 相談事例は個別ケースであり守秘義務があるため、この場で公表できないので、わかりやすい金額でいくつか試算してみた。一緒にケースを見ていこう。前提条件は、退職金2000万円、年金受け取りを選択した場合の運用率は2%、60~64歳は再雇用で働き年収は350万円、65歳から公的年金220万円の受給がスタート、東京23区在住の人。

 まずは、試算A(60~69歳の10年間の全収入比較)を見てほしい。

 試算Aは「全額一時金」、「全額10年確定年金」、「一時金と10年確定年金を半々」の3パターンについて、再雇用後の給与と公的年金を含めた10年間の額面収入と手取り収入を比較したものだ。

 額面収入では、2%の運用の効果もあり「全額年金受け取り」が最も多くなる。しかし、手取り収入で見ると1位は「全額一時金受け取り」に取って代わる。この試算結果を意外に思う人も多いだろう。年金受け取りをした場合の手取り収入を押し下げているのは、税金と社会保険料だ。試算Aの「中身」を見てみる。

 退職金を全額一時金で受け取ると(ケースA-1)、60代前半は給与のみ、65歳以降は公的年金のみの収入となる。税金と社会保険料の負担は、それぞれ年68万円と年23万円。

 退職金2000万円を全額年金受け取り(10年確定年金)すると(ケースA-2)、税金と社会保険料の負担は、60代前半が年89万円、後半は70万円とはね上がる。これにより「逆転現象」が起こるのである。

 「やっぱり税金は高いなぁ」と考えるのは早計。確かに再雇用で働く60代前半に退職年金を受け取ると、所得税の税率が高くなるため、税負担は多少重たくなる。しかし、60代前半の働いている間は社会保険に加入しているので、退職年金を受け取っても社会保険料負担には変化はない。

 手取り収入を押し下げている大きな要因は、完全リタイアした後に加入する国民健康保険と介護保険の保険料負担である。ケースA-1とA-2の65歳以降の額面年収は2倍程度であるのに対し、税金と社会保険料負担は、23万円から70万円と約3倍に増えている。

 2000万円を「一時金」と「10年確定年金」に半分ずつにするとどうかと思い試算してみたのがケースA-3。手取り収入は、「全額年金受け取り」よりも多くなったが、それでも「全額一時金受け取り」にはかなわないという結果になった。

 介護保険が導入された2000年から毎年「年金生活者の手取り収入試算」を定点観測で行っている。なので、高齢者の社会保険料負担が年々増えていることを実感している。今回の試算をする前に、うっすらと「全額年金受け取りは不利になるだろう。組み合わせが一番有利かも」と考えていたが、私の予想は外れた。

● 年金受け取り期間を長くしても 税金と社会保険料の負担は重い

 ここで試算をやめてもよかったのだが、年金の受け取り期間を長くして1年あたりの年金額を少なくすると、2%の運用の効果を得られるかもしれないと思い、「15年確定年金」で再試算してみた。まずは、結果から。

 試算Bは、「全額一時金」、「全額15年確定年金」、「一時金と15年確定年金を半々」の3パターンについて、定年後の15年間の額面収入と手取り収入を比較したものだ。

 結果は、「10年間比較」の試算Aと変わらないものとなった。受取期間を長くして退職年金を「薄く」もらうことにより、税金と社会保険料の負担を抑えられるかと考えたが、無理だった。「一時金受け取り」が手取り収入1位となった。内訳は、次の通り。

 いくつかのパターンを試算した結果、預金金利よりもはるかに高い2%の運用率であったとしても、年金受け取りすることで増える税金と社会保険料の負担は、運用益ではカバーできないということがわかった。

 

● お勧めは「全額一時金」受け取り、 年金額が増えるほど税・社保の負担も重くなる

 前述の試算は、あくまで一例である。「一時金」と「年金」、どちらを選択するとトクなのかは、企業年金の運用率、年金額、お住まいの自治体の国保・介護保険料率などによってケースバイケースとなる。

 ただ、ひとつ言えることは、1年あたりの年金額が多額になるほど、税金と社会保険料の負担が重くなり、「一時金」のほうが有利になる傾向にあること。この点は覚えておいてほしい。

 特に国民健康保険料と介護保険料は、多くの自治体で毎年のように引き上げられている。将来的にも保険料アップは避けられないだろう。こうした事情を考慮すると、私のお勧めは「一時金」受け取りである。

 一時金でまとまった金額を手にしたときは、注意点がいくつかある。まず、浮かれて大きな出費をしないこと。毎年夫婦で海外旅行に行き、大盤振る舞いをしたり、子どもたちに自分たちの体力以上の住宅資金援助をしたり…と、後先考えずに大出費祭りをする人が少なくない。70歳以降にお金が足りなくならないよう、まずは60歳以降の収支予測を立てることからはじめよう。

 また、多額のお金を手にすると、多くの人が「退職金運用病」にかかる。「何か増えるものに預けないと、せっかくのお金がもったいない」と考えるようだが、マイナス金利政策の状況下で安全に増える金融商品などない。

 「自分が知らないだけで、どこかにあるはず」と、金融機関(多くは銀行)に出向き、勧められた商品を一時払いで購入する人が後を絶たない。今なら「一時払いの外貨建て年金(もしくは終身保険)」を勧められるだろう。外貨建て商品は、日本人個人の資産運用に決して有利なわけではない。銀行や保険会社が「円建て」のものを売っても儲からないから、「外貨建て」を売っているという「売り手の事情」を知っておいてほしい。

 今回の私の試算では、2000万円を一時金受け取りして、その後運用をまったくしなかったとしても「全額一時金受け取り」が最も有利になったことを、頭の片隅に置いておいていただければと思う。

 (ファイナンシャルプランナー 深田晶恵)

日本人のお金の平均値「70歳以上の平均貯蓄額1312万円」「児童のいる世帯は勝ち組」

 

「ぶっちゃけ、みんないったいいくら稼いでるの?」「ウチの貯金額って少ない?」……他人の家のお財布事情って気になるけど、直接はなかなか聞けないもの。そんなお金のデータをここに大紹介、経済アナリストの森永卓郎さんに解説してもらます。

       

日本人のお金の平均値「70歳以上の平均貯蓄額1312万円」「児童のいる世帯は勝ち組」

日本人のお金の平均値「70歳以上の平均貯蓄額1312万円」「児童のいる世帯は勝ち組」

【貯蓄額】

  「高齢者世帯が無駄に貯めているとは思いません。みんな、有料老人ホームの入居金相当は貯めてるってことですね。ざっくり言えば1年間で300万円くらい。

 もちろん、コース料理が出るホテルみたいなところだと入居金だけで1億円以上だし、特別養護老人ホームなら月10万円くらいだけど、入居に何年も待つ。結局、“老後の沙汰も金次第”になっているわけです。

 逆に、高齢者世帯の1割~2割は400万円も貯金がないことのほうが怖い。やっぱりある程度、老後にはお金を作っておかないと。これから年金もどんどん下がっていきますから」(森永さん、以下同)

 

 

【平均所得】

 「児童のいる世帯は、すごく所得が伸びているように見えますけど、“児童のいる世帯=勝ち組”なんです。お金を持っている人しか結婚もできないし、子どもも産めない世の中になっているので。これは、勝ち組の実態なんです。一方、高齢者世帯は全然伸びていません。年金水準はまだ高いといえますが、将来的にもっと落ちていくと思いますよ」

 

 

【おこづかい】

 「景気が悪くなると、真っ先に削られるのは、おこづかい。アベノミクスで少し景気がよくなり、ようやく底打ちはしましたが、これ、バブルのころって夫は7万円とか8万円だったんですよ。それと比べると、底は打ったものの、低位安定。今年、景気が失速したら、また悪くなると思います」

 

 

【へそくり】

 「ほとんどの家庭で配偶者には言わない口座を持っているケースが多いんですよ。昔はタンスに隠していましたが(笑)。普段からちょっとずつ貯めていけば、作れる額面だと思いますね。最近は、フリマアプリの『メルカリ』で服を売ったり、『ミンネ』で手作りアクセサリーを売ったり。センスのある人は、そこそこ儲けているみたいです」

 

 

【都道府県別ランキング】北陸3県が豊かな理由

 「年収でも持ち家率でも、北陸3県(富山、石川、福井)が上位にきていますよね。なぜかと言うと、北陸は1人当たりの賃金は高くないものの、3世帯同居の家庭が多い。家も大都市と違って、バカデカい。かつ、家族のみんなが働いているんです。

 1人当たりは年収300万円でも、家族の4人が働いていれば世帯年収は1200万円。日本は片働きだと、累進課税でとてつもなく税金を取られるんです。だから、家族みんなでちょっとずつ稼ぐのが税制面でも有利だし、トータルで見たら圧倒的に強い。大都市とは異なる、もうひとつの豊かなライフスタイルがあることを示していますね」

 

 

週刊女性PRIME 2/6(月)

 

主婦が起業、副業で翻訳出版…「朝活」で人生が変わる!?

 

一日のスタート、朝の時間をムダにしていませんか。早起きして体と脳を動かし始めると、日中の活動もスムーズに進みます。朝は気分爽快で、邪魔が入らない自分の時間。朝を生かす人の声に耳を傾けると……。

「朝活で、人生が変わりました」と話すのは、東京都内在住の50代主婦、青木美智子さん。

 約6年前、通っていた速読教室の講師に紹介されて朝の読書会に参加して以来、魅力に目覚めた。

 さまざまな朝活イベントに顔を出すようになり、3年前には好きな本を紹介し合う朝の読書会を自ら始めた。青木さんは言う。

「専業主婦は、人脈が狭くなりがちです。人の紹介やSNSを通じ、10~70代のさまざまなバックグラウンドの人が参加してくれます。普段接する機会のない人と話せ、自分では選ばない本の話を聞けるのも、刺激的です」

 本の紹介という「ネタ」があるので、話題を探す必要がない。気後れせずに話せるのもメリットだ。

 青木さんは朝活を通じ、「イベントスペースのある古本屋を開きたい」との夢を抱くようになった。10月、理想の物件に出合って契約。今は夢の実現に向け、開業準備を進めている。

 夫の高夫さん(60)も一足早く、朝活で自分を変えていた。自動車メーカー勤務の会社員だが、朝の時間を生かし、翻訳家・ビジネス書作家として活躍する「違う顔」を持つ。

 30代のころ、仕事に役立てようと得意の英語を生かして読んだ海外のビジネス書に感銘を受けた。「多くの人に紹介したい」。そう思って、出版社に翻訳出版を提案。以来、翻訳や執筆を始め、朝7~9時に作業している。遅めに出社できるフレックス勤務をフル活用し、机に向かう。

「会社に行けば、山積みの仕事の片づけで終わり、将来の自分に投資する余裕がない。朝はだれにも邪魔されず、じっくりアイデアを練るなど、集中できる。執筆だけでなく、本業の企画書づくりもしています」

 10月には15冊目の訳・著書『仕事に追われない仕事術』(マーク・フォースター著)を上梓した。朝時間を生かし、訳書を地で行く時間管理をしている。

 

図解コンサルタント、池田千恵さんも「朝活で劇的に人生が変わった」。

 2度の大学受験失敗を機に早起きに目覚め、半年の早朝勉強で慶応大に入学。外資系企業などを経て、2015年に朝型勤務のコンサルティング会社を設立した。その名も「朝6時」。

「いつもより早起きできたら、ちょっとうれしいですよね。これも立派な成功体験。小さな達成感を毎日積み重ねると自信になり、チャレンジ精神も芽生えます」

 池田さんの考える朝時間のメリットは、大きく二つある。一つは精神的、時間的な余裕。早く一日が始まり、段取りを考え、自分の時間を持てる。もう一つは、前向きになれることという。

「朝は幸せホルモンとも呼ばれるセロトニンの分泌が盛んになり、おだやかで生産的な気持ちになれます。仕事で失敗すると、夜は落ち込みますが、朝にクヨクヨするのは意外と難しい。『会社を辞めてやる』とふて寝しても、朝になったら『上司の言うことも一理ある』と思えるものです」

 家事と仕事の両立にも、朝の時間をいかに使うかが重要になる。

 5、3、1歳の3児を育てつつ、フルタイムで働くブロガー、りか子さん(30代)。3年前から、夜9時半に寝て、早朝4時に起きる日々を送っている。

「以前は睡眠時間を削って家事や育児をしていたのに、どれも中途半端でした。夜は子どもと早く寝て、家事を朝にまわしたら、スムーズにこなせ、自分の時間も持てるようになりました」

 4時に起きると、まずコーヒーをいれる。お菓子を楽しみながら読書したり、パックなど時間のかかるスキンケアをしたり、自分の時間を過ごす。

 5時からは家事の時間。洗濯、夕飯の下ごしらえ、掃除、朝食の用意と手際よくこなす。モットーは、頑張りすぎないこと。掃除は片づけ程度にし、朝食は納豆や残り物などで簡単にすませる。

 6時になると、子どもを起こして食事や登園の支度。7時45分に家を出て保育園に送り、出勤する。

 

「肌の調子が良くなり、『3人も子どもがいるように見えない』と言われることが増えました。何より、心に余裕ができ、子どもにイライラしなくなったのがうれしい」(りか子さん)

 よいことずくめに見える朝時間。ただ、「パテカトルの万脳薬」を本誌で連載中の脳研究者、池谷裕二・東大教授はこう指摘する。

「朝は仕事がはかどると感じる人はそれでいいのですが、脳は必ずしも朝に最大のパフォーマンスを発揮する仕組みになっているわけではありません」

 朝の時間は、主に家事などの単純作業や運動、読書など受動的な行動が向いている。趣味の時間にするのも良いという。

「昼や夜と比べて朝は脳が処理できる仕事量が少ないので、体を動かしながら覚醒させるのが合理的。それでも、夜にした仕事を朝にチェックするのは理にかなっています。寝る前にインプットした情報は寝ている間に記憶に定着し、整理されるからです」

 これからの時期、朝は寒くて暗く、早起きがつらそうだ。どうすれば、決めた時間にすっきり起きられるだろうか。

 4時起き主婦、りか子さんはベッドで目薬をさし、目をシャキッとさせる。その後、枕元に用意した暖かい靴下と羽織りものを身につけ、ベッドを出る。

「朝6時」社長の池田さんは「タイマーで暖房がつくようにしておく。寝坊すると無駄になるので、それがプレッシャーになります。起きてから食べるお菓子など、ごほうびを用意しても」と話す。

 一方で、池谷教授は「起きる時間は休日も含めて毎日同じ時間に。休日の遅起きは自分で時差ぼけ状態をつくるようなもので、脳の働きに悪影響を与えます。疲れがたまっているならば昼寝を」とアドバイスする。

※週刊朝日 2016年11月18日号

定年後の「起業」、背中を押すのは妻の役目だ

 

■定年とは「夫婦が親しんだ生活習慣が崩れる」こと

 「定年」というのは、サラリーマンにとって本当に一大事だと思う。大学を卒業後、同じ会社にずっと勤めていたとすれば約40年もその会社にいたことになる。私の夫(大江英樹氏、野村證券で個人資産運用業務などに携わり、60歳で会社を設立。現在は経済コラムニストとして幅広く活躍中)もそうだった。

 転勤があったり、異動があったり、昇格して立場が変わったりと変化はあったと思うが、それでも同じ会社にいたとすれば、その組織の中でのモノの考え方がしみ付いている。一方で、会社という「戦場」での戦い方も、ある意味慣れたもので、勝手がわかっている。

 高年齢者雇用安定法の施行によって、会社はシニア社員として嘱託雇用するなど65歳まで働き続けられる選択肢を提示してくれる。正社員のままという会社もあるが多くの場合、立場が変わり、収入は大幅に減ることになり、先日までの部下を上司と仰ぐことになるかもしれない。さて、どうするか? 

 妻の側からは「元気なんだし、収入面も考えると働いてほしい」という声があがる。加えて専業主婦であれば、ご主人が働いている日中の時間にのみ、習い事や趣味、お友達と食事も集中させ、ご主人がいる時間はずっと家にいるという暮らしをしている方が大半だ。

 そんな方々から深刻に聞かされるのは「毎日ずっと家にいられても困る」いう声だ。そこには、自分が構築してきた「楽しい世界」が、これから制約されて維持しにくくなるのではないか、という不安や不満が含まれている。

 夫婦いずれの側も慣れ親しんだ世界から引っ剥がされるのが「定年」である。

 

 

迷いに迷い、いったんは起業をあきらめた

 子供がまだ独立していなければ、もちろん父や母として、優先すべきことがあると思う。だが、巣立った後はふたりである。パートナーとして、自分と相手の将来に向き合うしかない。

■定年前の59歳でいったん「シニア社員」で残る決断

 わが家の場合、夫は前出のように、大手の証券会社という非常に中途退職率の高い業界で大学卒業以来、約38年間働いていた。いわゆる「営業一筋のサラリーマン人生」で、特別な能力もスキルも持っていないと本人も私も思っていた。ただ、定年になったとしても健康で動ける以上、「働く」ということは決めていた。

 そして「定年」までの生活を支える大黒柱としての「働く」という働き方ではなく、「自分が納得できること」「やりたいこと」を仕事とし、その仕事が継続できるぐらいは収入を得られるような仕事スタイルが望ましいと日頃から話していた。「起業」である。長年、金融商品を売る仕事をしていた経験を活かし、「買う側に立った情報発信をしたい」、という。

 「起業」なのか、それとも、年収は約3分の1になるものの長年勤めた会社で「シニア社員」として働くか。

 会社へ意思表示をする期限が刻々と近づいてくる。夫は、当時「起業するのもいいね」と口では度々言うものの、夫がやりたいという情報発信が仕事として成り立つのかどうか自信がなさそうだった。そもそも、独立してカネを稼ぐという、ビジネスの「とっかかり」さえ見えなかった。

 結局、未知の世界に飛び込むという踏ん切りもつかず、「定年」まで1年という段階では、一応「シニア社員」として残るという判断をした。

 だが、組織の中では「自分の仕事と権限」が明確でないと「居る」ことは可能だが、責任を全うすることができないものだ。

 「シニア社員」として、夫が与えられたポジションはまさにそこが不明瞭であった(当時の大企業は法改正に合わせて雇用形態は作ったものの、組織としてどう活用するかというレベルに至っていなかった企業が少なくなかった)。

 大手証券時代は、常に仕事に前向きに仕事をしてきた夫からすると、どこにエネルギーを注いでいいのかわからず、当惑しているように見えた。そして彼自身、その問題点に気づいていながら、1カ月ぐらいは自分のことなのに、見て見ぬふりをしていたように思う。

 

 

自分と夫の夢を実現するために、まず自分が会社をやめた!

 私は、彼らしくない姿にイライラしていた。口先では「起業する」といっているのに、一向に行動する気配を見せない。一方で、実は自分も大学卒業後20年以上会社に勤め、その慣れた会社員生活を手放さないでいた。

 「このままではいけない」と思った。ふたりで「こんな暮らしがしたいね!」と言っていた生活を手に入れようとすれば、私もきちんと向き合わなければいけない。そこで、前々から自分で考えていたことを思い切って実行することに決めた。

■収入を絶ち、支えることに徹したことで夫にスイッチが

 前々から考えていたこととは、70歳になっても続けられる「食」にかかわる勉強を始めることだ。これを今始めよう。ただし、夫が起業するならそれをまずは支えよう。そう考え、夫よりも先に、自ら退社することを決めた。

 今から考えると、そこで夫もようやく「起業」に対して本気モードに入ったように思う。まったく未知の「起業」にむかって、情報収集をし、猛烈な勢いで準備を整えていった。会社の理念、名前、そして運営上の原理原則(借り入れはしない、特定の企業や団体のひも付きにはならない)などが、瞬く間にできていった。おそらくそれまでずっと心の中では考えていたのだと思う。

 会社の登記をしたり、ロゴを決めるという人生初めてのことや、想定していた仕事が来なかったり、思わぬことから大きな仕事につながった起業当時の「悲喜こもごも」を一緒に経験した。

 借金がないので、経済面でのひっ迫感はなかったものの、大した仕事がなかった半年間は、霧がかかったような不安がそれなりにあった。しかし、今はありがたいことに、夫は現役時代以上に仕事で飛び回っている。私自身もご依頼いただく仕事が出始めてきたので、一緒にいる時間は大幅に減ったが、先が見えない時に、一緒に船に乗っていた記憶は鮮明に絆として残っている。

 これは一般論だが、女性の方がいざという時に腰がすわるように思う。また、地域やPTAといったいろんな集まりの場で、見ず知らずの人の中に急に放りこまれても生き抜いていくノウハウを体得している方も多いと思う。

 定年という節目でパートナーが今までと違う大海にこぎ出なければならないとすれば、自分も影響を受けざるを得ない。とすれば、長年の勘で「本人にもなるべく向いている海」に船出するように仕向け、灯台のようにその船を照らすもよし、その船に一緒に乗り込んで揺られてみるのもいいのではないだろうか。

 

 

東洋経済オンライン 11/10

 

40代から考える老後のお金      共働き世帯に潜むリスクを回避する

 

妻の収入が家計に大きな影響を与えている共働き世帯にとって、老後に向けて最大のリスクとなるのが、夫婦どちらかが働けなくなった場合、収入が大幅に減ってしまうことです。60歳定年まで共働きが前提のマネープランではなく、収入がある今こそ、前倒しでやっておきたいことがあります。ファイナンシャル・プランナーの畠中雅子さんに、40代共働き世帯のリスク回避法を伺いました。

【連載】40代から考える老後のお金
子どもの教育費や住宅購入など、今の40代は大きな出費が複合的に待ち構えている時期でもあります。さらに老後資金もとなると、ただただ不安に思ってしまう人も少なくありませんが、やみくもに不安になっても仕方がありません。安心して老後を迎えるために、今、やっておくべきことを全5回の連載で考えてみます。

■万一の収入減に備えたマネープランを立てておく

数多くの家計相談を受けている畠中さんは、家計相談のなかでも、共働き世帯のうち、妻の収入減によってマネープランの見直しを相談されるケースがあると言います。

「女性は50代になると、ホルモンバランスの乱れなどで体調を崩す人が少なくありません。これまでと同じような働き方ができなくなり、最悪、仕事を辞めるというケースもあります。そうなると、これまで夫婦の収入でまかなってきた家計、貯蓄、住宅ローンの返済など、すべての面で見直しをしなくてはならないのです。夫婦そろって60歳まで元気で働けるとは限らないのです」

最近は、女性だけではなく、男性の更年期障害も注目されていますが、こうした原因がはっきりしない体調不良のみならず、歳を重ねれば、だれしも病気の不安は高まります。さらには、親の介護問題にも直面するかもしれません。介護離職ともなれば、世帯収入の減少だけではなく、介護費用の負担など、新たな問題が出てくる可能性もあります。

「今の40代は、まじめで堅実な人が多いように思います。子どもの教育費や住宅購入、自分たちの老後資金についても真摯に向き合っている印象です。だからこそ、一度つまずくと、マネープランのリカバリーが難しい世帯も少なくないのです。今、元気で働けているうちに、前倒しで手を打てることを考えてみてください」

畠中さんが言う、前倒しでやれることとは、(1)教育費の準備を早めに進めること、(2)住宅ローンを夫婦それぞれが借りるなら、妻の分は10年程度で早期に完済すること、この二つが大きな打ち手となります。

具体的に見ていくことにしましょう。

■【教育費】学資保険(こども保険)は5年、10年で払い終える

前回、子どもの進学については、一度、私立コースを選ぶとなかなか降りられないと解説しましたが、さらに加えると、夫婦どちらかの収入がなくなったとしても、大学卒業までの教育費の準備ができるかという点も大事だと畠中さんは言います。

「共働き世帯では、中学から私立を選択するケースがありますが、もしも収入が減っても通わせ続けられるだけの準備を前倒しでしておくことが大切になってきます。多くの家庭では、学資保険(こども保険)で教育費の準備をしますが、たいていは、17歳、18歳の満期まで毎月保険料を払い込みます。これを、5年、10年の短期間での払い込みにすると、早い段階で、大学卒業までの学費などを用意しておけ、安心です」

夫40歳、子ども6歳で、18歳から毎年学資金を受け取るパターンで考えてみましょう。学資金は18歳時で100万円、それ以降毎年50万円の合計300万円を受け取るケースです。

【図1】便宜上、子ども6歳で条件設定しているが、0歳で加入すれば、保険料は安くなり、返戻率も高くなる。保険会社によって条件や保険料、払込期間、方法などは異なるので、複数の会社で見積もりすることをおすすめする(出典:ニッセイ学資保険を例にシミュレーションし、筆者が作成)

子どもが18歳になるまで保険料を払い込む場合、毎月の保険料は、1万9840円。保険料の払込総額285万6960円に対して受取総額が300万円なので、「返戻(へんれい)率」は約105.0%です。これに対して、10年で払い込みを終わらせる場合は、毎月の保険料は2万3490円。保険料負担は重くなりますが、その分、返戻率は約106.4%と上がります。返戻率は高いほど貯蓄性が高いということですが、払込期間を短くする分、保険料は上がるものの、貯蓄性が高くなるのです。

さらに、払込期間を5年にすると、毎月の保険料は4万5710円。返戻率は約109.3%まで上がります。子どもの数にもよりますが、教育費の確保を優先するなら、学資保険(こども保険)を活用してみてもいいでしょう。

また、子どもが2人の場合、第1子の契約者は夫、第2子の契約者は妻、というように分けて加入すると、保障を夫婦で分散できるので(※1)共働きだからこその加入方法も検討しましょう。

「貯蓄性の高い保険は、マイナス金利政策の影響で、今後、販売停止や保険料のアップも予想されます。また、子どもの年齢によっては加入できないケース(※2)もありますので注意が必要です。早く教育費の準備ができれば、その分を住宅購入資金や住宅ローンの繰り上げ返済に回すこともできます。一度にあれもこれもと貯蓄するのは無理がありますので、まずは、教育資金の確保を目指してください」

共働きのうちに、払えるものは払っておく。これが一つのリスク回避になるのです。

※1:学資保険(こども保険)は、契約者(一般的には親)に万一のことがあった場合、それ以降の保険料の払い込みが免除され、学資金は契約どおりに受け取れる。そのため生命保険を補完する保障性がある
※2:保険会社によって異なるが、子どもの年齢が6歳までとするところや12歳まで可能とするところもある。親と子どもの年齢が上がれば、保険料が上がる点も注意したい

■【住宅購入】妻名義のローンは「繰り上げ返済」よりも「短期返済」が効果的

共働き世帯では、共有名義で住宅購入するケースがあります。住宅ローンを夫、妻それぞれが借り入れ、それぞれが返していくという場合、やはりリスクになるのは、どちらかの収入が減ってしまうと、とたんに返済が滞る可能性が高くなることです。

こうしたケースで、畠中さんがおすすめするのは、妻は変動金利型で返済期間10年など短い期間で完済するプランです。

住宅ローン3600万円のうち、夫名義で2600万円、妻名義で1000万円借り入れるケースで考えてみましょう。

【図2】いずれも2016年9月の平均金利で試算(住宅保証機構のシミュレーションを使い、筆者作成) ※試算詳細、端数処理は金融機関やシミュレーションサイトによって異なる場合があります

ケース1は、夫婦ともに全期間固定金利で35年返済とした場合。ケース2は、妻のみ、変動金利で10年返済とした場合。ケース2では、妻の毎月返済額がかなり増えますが、総返済額では、ケース1より200万円近く減らせることになります。

「妻の収入にもよりますが、返せる額であれば、負担は重くなっても、10年という短期間で片方の住宅ローンが完済するメリットは多くあります。基本は夫の収入で家計をやりくりしていき、妻の返済がなくなれば、その分を貯蓄に回すことができます。もしも途中で返済が苦しくなったら、返済期間を15年に延長するなどの条件変更も可能です。これが夫婦とも35年返済で計画を立てしまうと、問題が起きたときへの対処法が限られてしまいます」

もしも、家計全体での返済負担が重い、ということであれば、ボーナス併用も検討するといい、と畠中さんは言います。

「年間で10万円程度、つまり1回のボーナスで5万円程度の返済であれば、今後のボーナスの変動に左右されることなく、返済することができるのではないでしょうか。金融機関によっては、借入額の4割程度までボーナス返済に回せますが、割合ではなく、年間10万円程度になる額、ということがポイントになります。さらに、返済期間を30年にすれば、毎月の返済額は増えますが、総返済額はケース2より減らせ、早期に完済するメリットは大きいでしょう」

【図3】いずれも2016年9月の平均金利で試算(住宅保証機構のシミュレーションを使い、筆者作成)。試算詳細、端数処理は金融機関やシミュレーションサイトによって異なる場合があります

共働きであれば、お互いの収入から家計費をどう負担するのか話し合っているはず。住宅ローンも同様に、どう借りて、どう返していくのか、十分に話し合うことが大切だといえます。ただし、金融機関では、個別の事情に即したプラン提示はしてくれないので、自分たちで、さまざまなシミュレーションをして、方針を決めておくことが重要です。

不安に思うことは前倒しで解決する、住宅ローンは先送りにせず、早期に返済できる工夫をする、こうしたことが、金銭的な余裕にもなり、ひいては自分たちの老後資金への道筋となります。教育費と住宅ローン。どちらも40代にとっては、大きな出費。共働きだからこそ、収入の変動リスクを理解して、今のうちにやれることをやっておく、それがカギとなるわけです。

●取材協力/畠中雅子さん
ファイナンシャル・プランナー、生活経済ジャーナリスト。新聞・雑誌・ネットで多数の連載を持ち、セミナー講師や個人の家計相談でも活躍中。生活実感のある家計アドバイスに定評がある。著書は『どっちがお得? 定年後のお金』など60冊を数える。「子どもにかけるお金を考える会」、高齢者施設への住み替え資金アドバイスをおこなう「高齢期のお金を考える会」、ニートやひきこもりのお子さんを持つご家庭に生活設計アドバイスをおこなう「働けない子どものお金を考える会」を主宰している。
・子どもにかけるお金を考える会HP

●参考
・日本生命「ニッセイ学資保険」カンタンシミュレーション
・住宅保証機構 住宅ローンシミュレーション

 

 

 

SUUMOジャーナル 10月7日(金)

老後の理想の生活費は「夫婦で月30ー34万円」…現役世代は「私的年金」の活用を

 

ゆとりある老後を送るため、夫婦で必要な生活費は「30~34万円」。日本生命保険によるアンケート調査(2016年9月公表「敬老の日と老後・相続」)の結果によれば、調査対象1万271人の3分の1にあたる37.3%がそのように考えているそうだ。

元気で働き続けたり、不動産収入があったりする人は例外として、大半の人は、老後は年金と預貯金にたよって生活する。しかし、預貯金は生活費に使いたくないのも本音だろう。ゆとりある老後を送るために、年金はどの程度もらえるのだろうか。また不足分に備え、現役世代は何ができるのだろうか。蝦名和広税理士に聞いた。

●結局、どんな人が有利なの?

結論から言えば、「月額30~34万円」の年金をもらえるような夫婦とは、長年にわたって夫婦そろって正社員として働いてきた会社員や公務員の夫婦くらいです。

日本の公的年金は、「国民年金(基礎年金)」と「厚生年金」の「2階建て」だと言われます。「国民年金」が、20歳以上60歳未満の日本人すべてが加入するのに対し、「厚生年金」は、企業の正社員や公務員などのみが加入するものです。

つまり「2階建て」になるのは、会社員や公務員のみ。フリーランスや自営業の人は、1階にあたる国民年金のみとなるのです。国民年金(基礎年金)の支払い額も受け取り額も定額ですが、厚生年金は、月給に対して保険料率が異なり、支払う金額も受け取る額も異なります。

厚生労働省の発表によれば、平成28年度の平均支給額は次のようになっています。ちなみに「国民年金」とは支払う時の名称で、受給する時には「基礎年金」となります。

・基礎年金のみ:月額約6万5000円

・基礎年金+厚生年金:月額平均15万6000円

これをもとに試算すると、夫婦ともに基礎年金、厚生年金の両方がもらえる家庭では、「ゆとりある老後」が実現することが多いようです。

・夫婦ともに正社員:月額平均31万2000円

では、専業主婦世帯はどうなるのでしょうか。

【夫は会社員、妻は専業主婦・田中夫妻の場合】

妻が専業主婦であっても、年金はもらえます。たとえば、夫が40年間会社員だった田中さん(仮称)の例を検討します。田中さんの現役時代の平均標準報酬〈賞与含む〉は月額換算で42.8万円でした。妻は結婚以来、専業主婦です。

それを基に試算すると、

・平均月額22万円(基礎年金・厚生年金)

の年金がもらえることになります。

夫婦で「月額30~34万円」の年金収入を得るためには、多くの家庭で、国民年金(基礎年金)に上乗せをする必要があります。会社員が加入できる「厚生年金」や「企業年金」のほか、「国民年金基金」、個人型「確定拠出年金」などの「私的年金」があげられます。

●大卒後、正社員を続けてきた夫婦の場合

では、具体的に検討をしていきましょう。

前述したように、基礎年金の受給だけでは夫婦で「月額30~34万円」には到底、届きませんが、厚生年金の額によっては、届くこともあります。

例えば、夫婦そろって、新卒で22歳から定年60歳まで継続して勤務(正社員)をした山田さん(仮称)の例を検討してみましょう。

【共働きの正社員・山田夫妻の場合】

・夫:現役時代の平均年収700万円(うち賞与150万円)

   →65歳時点の年金:月額約19万円

・妻:現役時代の平均年収は400万円(うち賞与100万円)

   →65歳時点の年金:月額約13万円

山田さん夫妻は合計で、32万円の年金受給(基礎年金・厚生年金)となります。アンケート調査の「ゆとりある老後を送るため、夫婦で必要な生活費」に届きます。

しかし、山田さんのような例は、少ないでしょう。妻が専業主婦だったり、パートやフリーランスなどで厚生年金をもらえない場合には、夫婦で受け取る年金額は上記の金額を下回ってしまうのが実情です。

●「確定拠出年金」への加入

しかし、増やすこともできます。現役世代が検討するべき方法として、「確定拠出年金」の活用があげられます。

確定拠出年金は、公的年金(国民年金・厚生年金)に上乗せして給付を受ける「私的年金」の一つです。加入者自らが運用し、掛金とその運用益との合計額をもとに将来の給付金額が決定される仕組みのものです。掛金全額が所得控除となり、所得税・住民税の節税、運用益は非課税といった税制上のメリットもあります。

前述した、平均的な専業主婦世帯を想定がどう増やせるか、検討してみます。

【夫は会社員、妻は専業主婦・田中夫妻の場合】

田中さんの現役時代の平均標準報酬〈賞与含む〉は月額換算で42.8万円。それを基に試算すると、夫婦あわせて平均月額22万円となりました(基礎年金・厚生年金)。

夫婦で必要な生活費である月30万円に近づけるために、やるべきは2点です。

・30歳から60歳まで確定拠出年金に加入

・掛金2万3000円、運用利率3%と仮定

その結果が次の運用成績となります。

・積立元金と運用益で合計約1,340万円

・60歳以降、5年~20年の間で取崩して受給

・仮に20年で取崩した場合は月額約5万5000円

22万円+5万5000円で、27万5000円が入ってくるとの試算結果が出ました。

●自営業者の場合は?

自営業者の場合、国民年金のみの受給となります。前述の厚生労働省の発表によれば、国民年金の老齢基礎年金は、月額約6万5000円ですから「ゆとりある老後」には届かないでしょう。そこで、自営業者はより私的年金を活用する必要があります。

中でも、自営業者に確定拠出年金を勧めたい理由が、掛け金額が多くなる点です。厚生年金の加入者の場合、確定拠出年金の掛金は上限でも2万3000円ですが、自営業者は6万8000円までかけることができます。

【自営業者・鈴木夫妻の場合】

・30歳から60歳まで確定拠出年金に加入

・掛金上限の6万8000円、運用利率3%と仮定

その結果として、

・積立元金と運用益で合計約3,960万円

・60歳以降20年間で取崩した場合、月額約16万円

基礎年金の6万5000円×2人で13万円。これに16万円を足せば、29万円となりますね。

上記の試算結果はあくまでシミュレーションであり、運用結果によっては大きく運用益がでたり、またはその逆で損失がでてしまうことも考えられますが、月30万円に近づけることは可能といえるでしょう。

●「確定拠出年金」など「私的年金」の活用を

なお、上記のシミュレーションは現時点の情報をもとに試算しています。現在、若い世代の方々が年金を受給する時代、この金額であるとは言い切れません。しかし、目安にはなるでしょうし、私的年金の必要性は変わらないはずです。

今後も法改正や、多様な制度が創設されていくことになると思います。私的年金を活用することで、年金の受け取り額は増えていきますし、確定拠出年金のように節税できる制度もあり、積極的な活用をしていくべきでしょう。

自分が老後の何年間に、いくらの年金を受取りたいのか、また、そのためにこういった制度をどのように活用していくか、皆さんも一度検討してみてはいかがでしょうか?

 

税理士ドットコム から転載

 

アメリカ人が老後資金をためるためにしていること

 

「老後の資金が不安。でも、資産運用ってどう始めたらいいか、分からない」そんな悩み、ありませんか? 7月下旬、東京都内で開催された楽天証券のセミナーでは、資産運用の最新事例やマイナス金利時代の資産運用について、金融界の専門家達が議論を交わしました。そのなかから、「資産運用の最新事例について~金融先進国の米国では何が起きているか~」の内容をお届けします。世帯の約4割が投資信託を保有している金融先進国、アメリカでは、どのように資産運用を行っているのでしょうか。そこから私達が学べることとは?



 「資産運用の最新事例について~金融先進国の米国では何が起きているか~」
パネラー:中桐啓貴(ガイア株式会社 代表取締役社長)
     沼田優子(明治大学国際日本学部特任准教授)
モデレーター:叶内文子(フリーアナウンサー)


■アメリカでは4割が投資信託で運用している


叶内文子さん 私は20年ほど株の番組をやっていますが、自分の老後を見据えた資産運用のこととなると、実は何もできていません。やはり、資産運用ってすべきですか?運用先進国といわれるアメリカでは、どうでしょうか。

沼田優子さん(以下、敬称略) アメリカは投資大国といわれ、家計の4割が投資信託を持っています。しかし別に、好きだから、得意だから、皆がやっているというわけではありません。アメリカの人達も、老後の不安から、運用を“しなければならない”、投資を“やらざるを得ない”、と感じています。

中桐啓貴さん(以下、敬称略) アメリカでは投資して資産を増やして、フロリダやハワイで優雅な老後生活を送る人が大勢います。そういう成功体験をしている人が身近にいるのは、日本とは異なりますね。

―― 日本では「投資」と聞くと、個別株の意識が強いです。アメリカではどうですか。

中桐 日本のシニアの人達は、「どこの株を持っている?」と、日本の個別株の話をすることが多いですよね。アメリカの場合、みんな自分に合ったポートフォリオを持っていて、それを友達同士で見せ合う文化があります。「私は株が3割、債券が7割だけど、君はどう?」という感じです。ポートフォリオを持ち長期的に分散投資をしていく、という意識が浸透しています。

―― やはり、ポートフォリオという考え方をすべきですか?

沼田 そうですね。そもそも、年金の運用は1つの株に集中投資するわけではありません。だから、年金の代わりに自分で運用するのであれば、ポートフォリオ全体で見ていく必要があります。ポートフォリオ全体を見て、リスク許容度や、何年投資したいのか、というのに合わせて、アセット・アロケーションをつくり、銘柄を選ぶ。その後、必要があれば、リバランスをする。アメリカでは確定拠出年金が発達してきたことも影響して、ポートフォリオ運用の基礎知識が身につくのだと思います。


―― 分散投資、という話も出ましたが。2008年の金融危機のときは、どれも下がって、「分散投資って本当に意味あるの?」という疑問の声も挙がりました。

中桐 1つ興味深いエピソードがあります。アメリカに、マゼランファンドというファンドがあって、1960年代に1万ドル投資したら、2000年ごろに20億円(※日本円換算で)になっているような、すごく成績のいいファンドでした。ところが、実際このファンドを持っていた人の成績を調べたところ、平均的なリターンは、なんとマイナスだったのです。何もせずに、ただずっと持っていれば、何十倍にもなっていたはずなのに。

―― なぜ、平均リターンがマイナスだったのですか?

中桐 マーケットが急落したときに、多くの人が怖くなって、自分が買った値段より下がったタイミングで売ってしまっていたのです。ですから、そういう行動をせずに、どうしたら長期できちんとリターンがとれるかを考えていく必要がある。その文脈で、「分散投資」という話になるのです。日本人でもアメリカ人でも、急落すると誰もが売りたくなるもの。ずっと投資をし続けるのは非常に難しいことなので、アメリカではラップ商品(※資産の運用管理を金融のプロに任せるサービス)が出てきたり、専門家に相談したりするスタイルになってきました。

沼田 そうですね。アメリカでは、ロボ・アドバイザー(※コンピューターが自動的に資産運用を行うサービス)やファンドラップというサービスが出てきて、ファンドマネジャーの役割を低コストで代替するようになってきました。分散投資はリスクを軽減するための一つの手法だと思います。年金の代わりと考えるので、そもそも、投資をやめるという選択肢はないとアメリカ人は考えている。「投資はやらねばならないもの」と考えると、「リスクはほどほどで、安心して眠りたい」と思う個人投資家もいます。そういう人は、お任せできるロボ・アドバイザーやファンドラップを使うのも一つの手。そういったものをやってみて、物足りなさを感じたら、卒業して自力で投資したり、対面の営業担当者をつけるようにしたり。いろんな選択肢があるのがアメリカですね。

 

 

■専門家アドバイスはロボ、対面、両立型の選択肢が


―― 長期投資をしっかり意識したほうがいいということですが、20代で始めるのか、50代で始めるのか、投資家の年齢によっても運用の仕方は変わってきますか。

沼田 年齢が若くて金融資産が少ない時期は、導入商品として機械的なサービスを使って、ある程度、資産がたまったら、次の一手を考えるといいと思います。アメリカでも、老後が近づくにつれて、あるいは自分の資産の桁が1つ上がると、急に不安になって専門家にアドバイスを求める人が増えるとの調査結果があります。アドバイスの形も色々。金融機関に全部任せるのも手だし、自分ですべて分析して、どうしても個人では手に入らない情報だけを専門家に聞く、確認するというのも一つ。

中桐 導入としてまず、個別銘柄を見るのではなくポートフォリオを持つということを、きちんと体験してほしいですね。10万円くらいから始めて1~2年、自分が選んだポートフォリオがどういう値動きをするのか見てみる。40~50代になるとリタイアが見えてくるので、ただ運用で資産を増やすだけでなく、増やしたお金をどうやって使っていくのかも考える必要があります。介護や相続の話も出てくるでしょう。そういうステージになったら、またポートフォリオを変える、というのがいいと思います。

沼田 アメリカでは、全世帯の4割が投資信託を持っている中で、46%は対面アドバイスを受けています。投資信託を持っている人のうち、確定拠出年金だけの人が40%いるので、自分自身の手だけで投資している人は1割もいないということ。90年代は株式ブームでしたが、このとき自分で投資してみた人が、ITバブル、金融危機を経て、「やはりアドバイスは必要」と感じて、アドバイスに回帰したのだと思います。アドバイスの受け方も、「ロボだけ」「ロボと、(人間との)対面の両方を使う」「対面だけ使う」と選択肢が増えてきています。

―― 日本では手数料を気にする人も多いですが、コストについてはどう考えたらいいでしょうか。

中桐 コストが安い投資信託に投資した人がもうかっているのかというと、それはまた違う話。中長期的に資産を増やした人は、コストだけでなく、長期で投資できる“仕組み作り”をきちんとやっています。今はスマホでも簡単に投資ができるので、何かあると即座に売ったり買ったりしたくなりがち。しかし、そうではなく、いかに長期で持ち続けるか。その仕組み作りが重要です。そこで、例えばラップファンドを持つのもいいでしょう。コストの安さだけで選んでしまうと、結局、その後、リバランスが面倒になってきたり、放ったらかしになったりしてしまうので、必ずしも、コストだけで決めないほうがいいと思います。

沼田 アメリカでは2008年金融危機の後、コストを下げるという文脈の中で、ロボ・アドバイザーが注目されました。アセット・アロケーション(資産配分)には引き続き力を入れるけれど、運用はETF(上場投資信託)でよい、その分コストを削減する、と考えて生まれたのがロボ・アドバイザーです。

 

 

■10年単位で考えることが大切


―― 私達が老後資金の形成を考えるうえで、一番気をつけるべきことは何ですか。

中桐 今後も10年に1回くらいはリーマン・ショックのようなことが起こる可能性が高い。なので、20年後、30年後を考えて、自分が今取れるリスクはどの程度なのかをきちんと判断して、大切な資産が想定内の動きをするようなロードマップを組むことが大切です。年齢や投資経験によって取れるリスクは異なるでしょう。もし、リタイア後はあまりリスクを取れないのであれば、保守的なものに変えるなど、10年単位くらいで、変えていくのがよいかと思います。そうすることで、中長期的に、安定的に資産を増やすことができると思います。

沼田 ゴールに向かって少しながらも進んでいるか、反対に向かって走っていないか、ということの確認を四半期ごとにするといいと思います。専門家のサービスを使って確認ができれば、「今は大変でも方向性は間違っていない、このまま踏ん張ろう」と考え、安心して眠れます。そしてもう一つ大事なのは、面倒くさがらないこと。投資が好きな人ばかりではない。けれど、老後は誰にでも等しくやってくる。ですから途中で投げ出さずに、自分が続けられるやり方を探していくのが大切ですね。

中桐 日本ではまだ、専門家に相談する文化がなじんでいませんが、例えば、かかりつけの医者が近くにいると安心ですよね。同じように、かかりつけのお金の専門家に、中長期的にいろんな相談ができるといいと思います。急落して売りたくなっても、その前にひとこと相談して「これは大丈夫」と言ってもらうことによって、長期投資が継続できます。ロボを使うのもいいし、人間を使ってもいい。両方をうまく使い分けて、資産形成していくといいと思います。

沼田 自分がしっくりくる投資の仕方が何かは、色々試してみるのが一番です。仕事が忙しくなったとか、自分の状況によっても、好みの方法は変わっていきます。「投資はこうあるべき」と思わずに、色々試すなかで、合うものを探していってみてください。

(取材・文/柳澤明郁)

 

 

日経DUAL 9月7日(水)

 

収入の何%を貯蓄すれば安心? これが「人生設計の基本公式」だ! お金の運用で最も大事なこと

 

「現役」と「老後」のバランス

 以下は、筆者が「人生設計の基本公式」と呼んでいるもので、今後の現役時代の稼ぎ(手取り年収)を一定として想定したときに、現役時代の収入の何パーセントを貯蓄することが必要かを計算するものだ。

 例えば、大学を卒業して企業に就職したこれから23歳になるサラリーマンが65歳の誕生日に定年を迎えるまで42年「現役」で働いて、65歳から95歳になるまでの30年間、年金と蓄えの取り崩しで生きていくとしよう。

 「年金」を現役時代の手取り所得の3割として(厚労省が目指す「所得代替率5割」をアテにするのは現実的でない)、「老後生活比率」を現役時代の0.7倍、0.6倍、0.5倍、とすると、それぞれ19.0%、15.0%、10.5%を貯蓄しなければならない計算だ。

 知り合いのFPに聞くと、老後の生活費は現役時代の7割くらいが目処だという。新入社員諸君は、「手取り所得の2割貯められれば、老後の生活に心配はない」、「1割貯められないようだと、老後の生活は現役時代の半分未満になる」と認識されたい。将来大いに稼ぐ人も、それほど稼がない人も、現役生活に対してそれなりのバランスの老後が待っている計算だ。

 大まかではあっても、計算ができていて、必要貯蓄率が確保できていれば、「老後貧乏」だの「老後難民」だのといった世間の「脅し」を恐れる必要はない。

 読者は、今後の想定される平均年収(手取り)と、老後にあって現役時代の何倍の生活をしたいか「老後生活費率」を想定し、先の公式で必要貯蓄率を計算してみて欲しい。

 老後生活費率、現役年数(これを延ばすと、老後年数が縮む)を変えて、達成可能な「必要貯蓄率」に辿り着いたら、大まかな経済的人生設計が完了する。

可能貯蓄率から逆算する

 さて、35歳で、手取り年収が600万円、資産が2,000万円あるサラリーマンがいて、彼は老後にあって「現役時代の7掛けの生活」を望んでいるとする。定年を65歳、老後を30年として必要貯蓄率を計算してみよう。

 将来受け取る年金額は年間180万円と仮定する。収入は今後少し増えるだろうが、将来は役職定年等で55歳くらいから減り始めるし、60歳以降は大きくレベルダウンするので、35歳の現状の収入を将来レベルとして考えることにした。

 現在、彼は、手取り収入の17%を貯蓄できれば、希望するレベルで老後の生活を送ることができる。年間102万円、ひと月当たりに均すと、50万円の手取り収入から、8万5千円貯蓄すればよい。毎月41万5千円で暮らして、老後には毎月約29万円で暮らす計算になる。

 彼は、どこまで貯蓄率を上げることができるだろうか。「20%が限界だ」と考えたとしよう。

 彼が今よりも3%余計に貯蓄できると、現役期間30年で540万円余計に資産を作ることができる。この額が、運用で損をしてもカバーできる額の限界だ。

 つまり、彼の場合、運用での損が540万円までなら、これを貯蓄率を20%まで上げることでカバーできる。「運用の損の上限」を先のように35%と仮定して逆算すると、約1,542万円がリスク資産に投資できる限界だ。

 例えば、子供の学費が予定よりも500万円余計に掛かる、といった事態が起こった場合、リスクを取る余裕がほとんどなくなることが分かる。

 こうした場合、投資でリスクを取る余裕を作るためには、老後の生活レベルを落とすなど、前提条件を変えて、人生設計をやり直す必要が生じる。

「老後資金の準備」で後悔する人、しない人

 

なぜ資産運用の必要があるのでしょうか。おそらく、多くの方は漠然としたイメージしか持っていないのではないでしょうか。

 子供の教育費、住宅購入費、自動車購入費、その他にもさまざまな理由はあると思いますが、それらをひっくるめて、最終的な資産運用の目的は、自分自身の老後に必要なおカネを作ることにあるのではないかと思う次第です。「老後の生活に必要なおカネ」といっても、30代や40代前半の人たちにとっては、まだ今ひとつ現実味がないと思います。おそらく、今の50代、60代の人たちも、若い頃はそうだったのでしょう。

 でも、自分自身が50代になってみて、初めて気づくことがあります。それは、「もっと早くから老後資金の準備をしておけば良かった……」ということ。老後の資金準備といっても、ただおカネを貯めるだけではダメです。なぜかというと、インフレになった時に資産が目減りする恐れがあるからです。

■ インフレ下の低金利という歪んだ状況も

 今、30代の人が60歳になった時を想定して老後の資金を作ろうとした場合、20年から30年という長期にわたっておカネを貯める必要があります。この間、もしもインフレが進んだら、資産の実質的な価値が目減りする恐れもあります。

 基本的に物価が上がれば金利も上がるので、預金にしておけば十分にインフレヘッジができると考えている方もいるでしょう。確かに、それが事実だった時代もありましたが、これからはその事実が通用しなくなるかもしれません。金利が上昇すると、1000兆円にも達する政府債務の利払いが巨額になり、ますます債務返済が進まなくなる恐れがありますし、インフレが進めば相対的に債務の負担が軽減されるので、日銀は簡単に利上げには踏み切らないでしょう。

 かくして、インフレ下の低金利という、歪んだ状況が作り出されるおそれがあるのです。当然、そうなったら、預貯金ではインフレリスクをヘッジできなくなります。だからこそ資産運用が必要になるわけですが、問題は何で運用すれば良いのかということでしょう。

 最も確実な方法は、10年物変動金利型の個人向け国債を買うことです。現在の金利は0.05%ですが、それでも定期預金の0.01%に比べれば有利です。ただ、それではなかなか資産が殖えないので、少しでも高いリターンを狙うなら、株式やFX、投資信託などを活用します。

 

不動産は?株式は?

 最適なポートフォリオはどうなのか、という点を気にする人もいると思いますが、私はとにかくどれでもやってみることをお勧めしています。正直なところ、どの金融商品がインフレに強いかなどというのは、はっきりとは言えないからです。

 たとえば不動産。かつてはインフレヘッジの王道などと言われましたが、それは不動産バブルの頃の話です。当時、日本は国土が狭いので、どんどん土地不足になり、地価は無限に上昇するなどと、本気で思われていました。でも、今はどうでしょうか。

 日本は人口減少社会になり、土地のニーズは今後、徐々にではありますが後退していくでしょう。大都市の一等地は地価が上昇しても、地方は安いままに放置されているなどという風景は、ここかしこで見られます。土地を持ってさえすればインフレリスクをヘッジできるという時代は終わったのです。

■ 最終的にインフレに勝てば良い

 株式もそうです。株式がなぜインフレに強いのかを理屈っぽく説明すると、インフレによって物価が上昇すると、企業の名目の売上や利益がかさ上げされ、それを株価が織り込みに行くため、株価が上昇する、ということになるのですが、すべての株式にそれが通用するわけではありません。

 インフレが進むなかでも業績が良くならない企業は当然あります。そういう企業の株価は、いくらインフレが進んだとしても、おそらく値上がりしないでしょう。東京証券取引所だけでも、上場されている企業の数は3526社にも上ります。その株価が、「インフレ」という単独の材料だけで上昇するのは、現実的にも考えにくいところです。

 このように考えていくと、ますます何がインフレに強い資産なのか、分からなくなってきます。なので、とにかく何でもやってみれば良いという結論に達します。ちなみに私は、株式もFXも個人向け国債も、そしてネット銀行の定期預金も含め、いろいろなものにおカネを分散させています。全体で見た時に、最終的にインフレに勝てれば良いという発想で、個人資産を運用しています。

 特に若い世代の人たちは、どの資産運用が自分に合っているのか、まだ分からないでしょうし、仮に失敗したとしても、損失を取り戻せる十分な時間がありますから、なおのこと、いろいろな投資にチャレンジした方が良いと思います。

 

 

東洋経済オンライン 8月23日(火)

マネー詐欺にダマされないための5つの心得

 

どう考えてもあやしい投資話に乗っかる人は少なくない。しかも、それなりに知識や経験のある人が被害に遭っていたりする。その“騙しの手口”とは……? 自らも投資マニアであり、数々のあやしい商品に手を出してきたと語るFP・藤原久敏氏のツッコミを交えて検証する

◆いかにして詐欺業者に”面倒くさいヤツ”と思わせるか

 FPの藤原久敏氏は、自らも投資マニア。未公開株はもちろん、和牛オーナーや海外ファンドなど、さまざまな“あやしい”投資話を自腹で試してきた猛者だ。そんな藤原氏は、HBOに寄せられたマネー詐欺エピソードを見て「被害者の方々は“調べる”手間を惜しみすぎですね」と言う。

「もちろん“調べるのが面倒くさい”という状態をわざと作り出すのが、詐欺業者の手口ではあるんです。例えば、FXファンドに引っかかったケースでは、運用会社の名前が『アセットマネジメント』になっていました。アセットマネジメントというのは資産管理の代行業務を意味する単なる一般名詞であって、検索すれば『野村アセットマネジメント』みたいな社名がゴロゴロ引っかかってきて、それ以上突っ込んで調べるのが面倒になります。そこで『まぁ、この中のどれかだろう』と考えてくれる人は、格好のカモになるわけです」

 カモにされないコツは「とにかく質問すること」と藤原氏。

「相手に“面倒くさいヤツ”と思わせることができれば、怪しい業者ほど早々に手を引いていきます。また“ネットの評判”はぜひチェックしておいたほうがいい。ネットの意見はアテにならないと思われがちですが、こと“金融商品に関するネガティブな情報”については信用できるケースが多いんです。専門家並みに詳しい個人ブログが“あそこの経営状態はおかしい”などと指摘している場合もありますし、実際に被害に遭った体験談が見つかることも」

 一方で“一知人”のプッシュは、相手にしないほうが無難だと言う。

「未公開株詐欺のケースでは、『FBで知り合った知人の勧めなので信用してしまった。これが電話勧誘だったら騙されなかったと思う』とのコメントが印象的でした。詐欺業者もこうした投資家心理は心得ていて、SNSを利用した詐欺は増えています」

 結論は「向こうからやってくる儲け話は99%怪しい」。

「これは、相手がちゃんとした銀行や証券会社でも似たようなもので、営業マンが向こうから持ってくる話は、向こうが手数料で儲かるようになっているということを忘れてはいけません」

◆五つの心得

一.とにかく相手に“質問”せよ

二.“ネットの評判”はチェックして損なし

三.小出しで出資を募る商品は敬遠せよ

四.電話勧誘より危険なのは“友だちヅラした個人”

五.向こうから舞い込んできた話は99%怪しい

【藤原久敏氏】

‘77年生まれ。’01年、当時としては全国最年少での独立系ファイナンシャルプランナーとなる。投資マニアでもあり、著書『あやしい投資話に乗ってみた』(彩図社)では、自身のカラダを張った投資体験を披露している

取材・文/江沢 洋 加藤純平(ミドルマン) 古澤誠一郎

― あやしい投資話[騙しの手口]リポート ―

「退職金」知っておいて損はない基本中の基本

 

 

「退職金」知っておいて損はない基本中の基本

 

 

 

 「とんだ計算違いでした」

 東京に本社を置く中堅の映像制作会社に30年勤めるAさんは打ち明けます。Aさんは来年秋に60歳の定年退職を迎えます。会社が用意している嘱託再雇用の道は選ばず、妻と2人で富士山の見える山梨県に移り住んで、スローライフを満喫する計画を立てていました。

 大学時代の1年先輩で東京の大手家電メーカーに勤めていたYさんが昨年の定年退職で得た約2500万円の退職金を元手に家を買ったことを聞いていたAさんは、「ウチの会社でも1000万円ぐらいは出るんだろう」とアテにしていました。

 ところが、そのもくろみは大きく崩れてしまうことになりました。来年の退職を前にして、会社の人事担当者から「退職金はありません」と告げられたからです。

 「えっ! そんなバカな。昨年、当社を定年退職したTさんは勤続20年だったのに、数百万円支給されたと聞いていますよ」(Aさん)

 「Tさんに支払ったのは退職功労金で、いわゆる退職金制度は当社にはないんです」(人事担当者)

■ 退職金は企業の義務じゃない!? 

 Aさんは会社に抗議したものの、受け入れられませんでした。その後、労働基準監督署に相談し、「就業規則を確認して下さい」というアドバイスに従って、目を皿のようにして就業規則を読み返したものの「退職金」の文字は見当たりません。「退職金は任意で決めるもの、退職金制度が無くても違法ではない」ということを初めて知りました。

 Tさんに支払われた退職功労金は、就業規則には「社員が退職した場合で、在職中に特に功労があったものと認められる場合には退職功労金を支給する場合がある」というあやふやな記載がされているのみでした。部長職まで上り詰めたTさんに比べ、Aさんは課長どまり。勤続年数の長さは関係なく、Tさんほどの功労金が支払われる可能性は限りなく低そうです。

 「退職金がもらえる」とAさんが思い込んでしまったことには理由があります。それは、日本ではまだまだ退職金(一時金、年金)制度を持っている企業が多いからです。「平成25年就労条件総合調査結果」(厚生労働省)によると約75%の企業で退職金制度があり、特に大企業になるほどその比率は高く、社員1000人以上では90%超える企業が退職金制度を有しています。30人以上99人以下の企業でも72%です。

 退職金制度がある企業ではいったいどのくらいの金額が支払われるのでしょうか? 2015年4月に日本経済団体連合会が発表した調査結果によると大学卒が勤続38年間で定年退職を迎えた場合は2357万円。中小企業の統計(東京都産業労働局)では同様の条件で1383万円となっています。

 よく「退職日の基本給に係数をかけて算出するんだよ」なんて話をする人がいますが、それは単純に“そういう設計をしている会社が多い”というだけで、特に決まりがあるわけではありません。つまり、制度の有無も自由であるのと同じで、退職金をいくらにするのかというのも企業の自由なのです。したがって、38年間勤めても“スズメの涙”なんてことも無い話ではないのです。

■ 退職金規程で計算方法をチェック

 あなたは、勤めている会社の退職金規程を見たことがありますか? そこには退職金の算出方法をはじめ重要な事由が記載されていますので見逃せません。例えば、こんな規程だった場合のチェックポイントを見てみましょう。

第1条(適用範囲)
この規程は、就業規則第〇〇条に定める社員に適用する。
第2条(退職金の算定方法)
退職金は退職日現在の基本給に、退職事由、勤続年数により定められたそれぞれの支給率を乗じて算出する。
第3条(退職金の額)
退職金は、勤続1年以上の社員が退職したときは、別表の支給率により計算し一時金として支給する。ただし、次の事由で退職したときは、別表の支給率を適用する。
(1)自己都合によるとき
(2)懲戒解雇するとき

 まずは第1条(適用範囲)を見てみましょう。ここでわかることは、「退職金制度が適用されるのは誰か?」ということがわかります。「〇〇条に定める社員」の定義で「正社員」となっていれば正社員以外の社員は支給対象外というわけです。

 次に第2条(退職金の算定方法)についてですが、ここでは具体的な計算式を確認できます。基礎となるのは「退職日現在の基本給」です。例えば、何らかの事情で退職日直前に基本給が下がってしまった場合は、下がった額が基礎となってしまうのです。また、毎年4月に昇給しているような会社であれば、3月末日ではなく、4月に入ってから退職したほうが退職金が多くなるということです。

 

勤続年数については、1年未満や1カ月未満の端数をどう処理するのかを確認します。例えば、「給与の締日が20日だから」という理由によって20日付で退職した場合、その月は「1カ月未満」であるため勤続年数から除外されてしまうかも知れません。なぜなら、「基本給」もそうですが、「勤続年数」も長い方が退職金は高くなるように設計されているからです。

 第3条(退職金の額)では支給率について定められています。勤続年数や退職事由により支給率が異なるのでチェックが必要です。一般的には、「自己都合退職」の場合は「定年退職」や「会社都合による解雇」よりも低い支給率が設定されていることが少なくありません。また、「懲戒解雇」の場合も低く設定されているか、もしくは「支給しない」というように規定されていることもあります。

 例えば、「会社の勧奨に応じて退職する」なんてケースでは、あらかじめ退職金の計算方法がどのように設定されているのかを確認のうえ、合意をしたほうが良いでしょう。また、退職金は、ある一定程度の勤続年数が無いと支給されないように設定されていることもあります。「退職日が1日早かったために退職金が支給されない」なんてこともありますので、上記の勤続年数の計算とあわせて確認しておきたいところです。

 ところで、「懲戒解雇されると退職金がもらえない。それならバレる前に退職してしまおう」なんていう考えを持つ人がいたとすればそれは大間違いです。多くの企業では退職金規程に「在籍期間中に懲戒解雇・諭旨解雇に相当事由があったときは不支給または減額して支給する。なお退職金受領後に発覚した場合は、本来不支給とすべき金額を返還させる」といったように規定されています。大事に至る前に正直に会社に相談しましょう。

■ その他の退職金制度

 退職金は任意の制度ですので、上記のような計算式ではなく、「ポイント制」を採用している企業もあります。この制度は、基本給は基礎とせずに、勤続年数や職務グレード、役職等に応じてポイントを加算し、それをもとに退職金額を決定する制度です。

 例えば、勤続年数20年で、そのうち課長を5年、部長を5年勤めたAさんがいるとします。ポイント単価は1ポイント1万円と設定します。勤続年数のポイントが20年300ポイントとし、役職ポイントを課長10ポイント、部長20ポイントとします。Aさんのポイント合計は300ポイント+50ポイント(課長)+100ポイント(部長)=450ポイントとなります。1ポイント1万円設定ですので退職金額は450万円になります。

 その他、中小企業では中退共(中小企業退職金共済制度)に加入しているケースもあり、退職金規程で「退職金額は掛金月額と掛金納付月数に応じて中小企業退職金共済法に定められた額とする」と規定している場合があります。このような場合では、退職金規程を見ても実際に支払われる額がわかりません。

 そこで毎年会社から配布されるか「加入状況のお知らせ」を見て退職金額を確認しましょう。ちなみに、掛金そのものは事業主が従業員ごとに任意で決められるのですが、減額する場合には原則として従業員の同意が必要です。いつの間にか減額がされていたなんてことにならないよう「加入状況のお知らせ」は必ず確認してください。

 これ以外にも退職金制度やそれに替わる福利厚生制度として年金基金や401Kに加入している企業もあります。ご自身の会社がどのような制度になっているのか確認しておくといいでしょう。

 企業の退職金制度には、「採用を有利にしたい」「定年まで勤めてほしい」「定年前に退職してほしい」などいろいろな思惑があります。例えば、3年以内の離職率が異常に高いような企業では、退職金の支給基準を「勤続3年以上」とすることにより離職に歯止めをかける役割を担います。

 

また、コンサルタント会社のように「10年で一人前」と考えているような会社は「勤続10年以上から支給率が上がり始めて同20年で2倍」などという設計をすることもあります。また、「55歳で退職した場合は功労加算あり」など自発的な退職の誘因として設計することもあります。

■ 退職日の選択は慎重に

 退職日の決定は退職金のみに影響がでるわけではありません。退職日の選択によりさまざまな影響が考えられるのです。

 (1)賞与
多くの企業が導入している賞与でも支給要件を確認したことはおありでしょうか? 「見たことない」のに退職を考えているあなたは大失敗するかもしれません。

 給与規程において「賞与は支給日現在、在籍している社員に支給する」と賞与の支給について定めている企業は少なくありません。これがどういうことかというと、読んで字のとおり、会社が決めた賞与の支給日に、社員として在籍しているかどうかで賞与の出る、出ないが決まるのです。例えば、夏季賞与の支給日が7月21日の場合、7月21日付退職ならば賞与は支給されますが、7月20日付で退職をするとまったく支給されないということなのです。賞与に関しても退職金と同様、会社の“決め方”次第ですので、給与規程をよく確認しておくことです。

 (2)社会保険(健康保険・厚生年金)

 社会保険料の仕組みをご存知でしょうか。かいつまんで説明すると、月末まで在籍している場合は、その月の保険料が発生し、月中で退職している場合では保険料が発生しないのです。例えば、7月31日で退職したケースでは7月分の社会保険料が控除されるのですが、7月30日退職であれば控除されないわけです。

 退職後の状況によっては国民年金や国民健康保険料が発生することもあるので、一概に「月中退職が得」といったようなことは当てはまりません。ただし、こと”賞与”だけを考えれば当てはまりそうです。健康保険や厚生年金では”賞与”からも保険料を控除されるからです。

 つまり、賞与が支給された後、月末前(7月であれば7月30日まで)に退職すれば、通常の保険料のみならず、賞与からも保険料が徴収されることはないというわけです。国民年金や国民健康保険料にも影響はありませんので、ここだけに注目すれば”得”といっても差し支えないでしょう。ちなみに退職金には社会保険料はかかりません。

 (3)基本手当

 基本手当(失業した場合に雇用保険より支給される生活補償です)も退職日によっては支給されないこともあり得ます。基本手当は「離職日以前2年間に被保険者期間1年間」というルールがあります。簡単に説明すると、「退職日前の勤続2年間のうち、ちゃんと勤務していた月(11日以上)が12カ月以上あれば支給します」という制度です。

 この2年間や12カ月というのは退職日からさかのぼって暦日、暦月で計算されるので、「1日遅く退職してれば受給できたかも」なんてことも起こります。例えば、2015年8月1日に入社し、2016年7月30日で退職したとします。この場合、7月が1日足りないため11と2分の1カ月となってしまうのです(15日以上1カ月未満の月は2分の1カ月となります)。つまり、要件の12カ月に足りないため「基本手当がもらえない」ことになってしまうのです。

■ 「知っておく」ことの大事さ

 「会社のルールを知っておく」ことや「自分の生活に関係のある法律を知っておく」ことによって生活設計どころか人生設計まで大きく変わってきます。特に退職金は起業など次のステップへの軍資金であったり、セカンドライフの貴重な財源となったりなど人生を大きく左右する可能性があるものです。

 就職先や転職先を選ぶときには「退職金の有無」だけではなく「どういった設計になっているのか」など、可能であれば確認しておくことが大事です。また「退職金がない」「功労金のみ」といった会社であれば、それを見越した貯蓄計画を立てておく必要もあるでしょう。そして、退職を決意した場合にも、しっかりと「知った」うえで退職日を計画することでよい門出を迎えることができるでしょう。逆に「知らない」のは最も恐ろしいことです。

 

 

東洋経済オンライン  から転載

今のシニアにズバリ聞いた、「50代までに老後のために備えをしてた?」

 

日米独では預貯金がトップ

 

歳を経ると心身共に衰え、収入も得にくくなるため、生活維持のために高齢者向けの各種制度を利用したり、蓄財を切り崩したり、収益確保の仕組みを利用することになる。それでは現在シニアの立場にある人たちは、過去にいかなる「備え」をしていたのだろうか。今回は内閣府が2016年5月に発表した、高齢者の生活と意識に関する国際比較調査の最新版となる第8回調査(2015年9月から12月にかけて日本、アメリカ合衆国、ドイツ、スウェーデンにおいて、60歳以上の男女(老人ホームなどの施設入所者は除く)に対して調査員による個別面接聴取方式で実施。有効回答数は各国とも1000件強。それぞれ性別・年齢階層別・地域・都市規模などを元にウェイトバック済み)の結果から、日本だけでなく他国の状況も合わせ、その実情を確認していくことにする。

次に示すのは今調査対象母集団=60代以上の高齢者において、そこに至るまで、つまり50代までに、老後の備えとして何を準備していたか、複数回答で尋ねた結果。例えば預貯金で日本は46.6%とあるので、現在シニア層の日本人のうち半数近くは、現役世代において老後の備えとの意思の下で、預貯金をしていたことになる。

 

 

↑ 50代までに老後の経済生活に備えてしていたこと(2015年、60歳以上、複数回答)
↑ 50代までに老後の経済生活に備えてしていたこと(2015年、60歳以上、複数回答)

各国における高齢層に向けて整備された社会制度やお金に対する考え方の違いがよく現れた結果となっている。預貯金をしていた人はどの国でもそれなりに多いが、意外にも日本よりアメリカ合衆国やドイツの方が多い。スウェーデンでは預貯金以上に個人年金への加入者が多く、6割近くに達している。個人年金はスウェーデン以外にアメリカ合衆国でも高めで、これが4割強。さらに両国は有価証券の取得でも高い値を示している。

他方、「何もせず」、つまり公的年金や退職時の退職金、現役時代の就業をそのまま継続するなどでまかなえるとし、自己のさらなる積み増しの類は必要ないと判断していた人も、どの国にも一定数が確認できる。ただし日本はこの回答率が他国と比べて極めて高く、4割を超えている。昨今の年金問題に絡み、高齢層の一部の不安の遠因は、この「自前の積み増し的な準備をしていなかった」ことにあると考えれば道理は通る。

 

 

預貯金と職業能力に的を絞ると

次以降に示すのは、特定の項目に絞り、各国の年齢階層別による回答率をグラフ化したもの。個々の年齢階層、というよりは世代における「老後の備え」に対する考え方の相違が把握できる。

 

↑ 50代までに老後の経済生活に備えてしていたこと(2015年、60歳以上、複数回答)(年齢階層別、「預貯金」回答率)
↑ 50代までに老後の経済生活に備えてしていたこと(2015年、60歳以上、複数回答)(年齢階層別、「預貯金」回答率)

どの国でも世代で大きな変化は無い。厳密に精査すると、日本では昔ほど老後に備えた預貯金の積み立てを軽視し、最近では重視するようになっている。スウェーデンも(一部イレギュラーが生じているが)似たような現象。ドイツではむしろ逆に、現在に近づくに連れて預貯金から距離を置く傾向。

 

↑ 50代までに老後の経済生活に備えてしていたこと(2015年、60歳以上、複数回答)(年齢階層別、「職業能力」回答率)
↑ 50代までに老後の経済生活に備えてしていたこと(2015年、60歳以上、複数回答)(年齢階層別、「職業能力」回答率)

これは原文では「老後のために職業能力を高める」と記載されている。歳を経ても対価が維持できる技術を身につけたり、資格を取得したり、あるいは新しい対価就業方法を見出すことを意味する。スウェーデンではばらつきがあるもののほぼ横ばいだが、それ以外の国では絶対値の差こそあれど、一様に昔より今の方が手掛けていた人が多い。つまり、昔と比べて今に近づくほど、60代以降も対価収入のある就業が必要になると考えていた人が多いと解釈できる。特にアメリカ合衆国では、60代前半の人は2割以上が回答しており、高齢者就業の供給が大きいことがうかがえる。

余談だが、今件調査項目は複数回答形式のため、実際に手がけていた種類数が多ければ、累計回答率も多くなる。そこで単純に各国の回答率を足したのが次のグラフ。当然「何もせず」は除外してある。

 

 

↑ 50代までに老後の経済生活に備えてしていたこと(2015年、60歳以上、複数回答)(年齢階層別)(「何もせず」以外の回答率合計)
↑ 50代までに老後の経済生活に備えてしていたこと(2015年、60歳以上、複数回答)(年齢階層別)(「何もせず」以外の回答率合計)

具体的項目の注力度合いまでは分からないが、少なくとも種類別においては、日本の備えの度合いが他国と比べて低いことがよく分かる。この状態を善しとすべきか否かは判断に迷うところがあるが、現状を認識する材料の一つとして覚えおくべきだろう。

 

 

高年収な人ほど「老後貧乏」に陥りやすい理由

 

 「老後破産」「老後貧乏」――。

 近年、よくメディアで目にするこれらの言葉を見て、現役世代の人はどう思うでしょうか?  もし、「自分は大丈夫」「なんとかなるだろう」と思っているとしたら、とても危険です。


■ 老後の家計は基本的に「赤字」

 日本の生活保護受給世帯は160万強。そのうち約半数を高齢者世帯が占めています。今後も高齢者人口の増加と比例して、生活が立ち行かなくなる世帯が増え続ける可能性が高そうです。なぜなら老後の家計は基本的に「赤字」になるからです。2014年度の総務省の家計調査によると、年金暮らしの高齢夫婦無職世帯の収支は平均で月6万1560円の不足で、年間約74万円の赤字。この分は貯蓄で補填していることになります。

 現在、貧困に苦しむ高齢者の方だって好き好んで苦しんでいるわけではありません。きっと「なんとかなる」と思っていたはずです。しかし、現実はそうではなかった。これから人口が減っていき、ますます厳しい状況が予想される現役世代は、どうすればおカネに困らない老後を迎えることができるのでしょうか? 

『「なんとかなる」ではどうにもならない定年後のお金の教科書』の著者であり、ファイナンシャルプランナー・公的保険アドバイザーとして多くの人におカネにまつわるアドバイスをしてきた山中伸枝氏が、老後貧乏に陥らないためにどうすべきかを紹介します。 実は「老後貧乏」に陥る危険性が高いのは、いま年収がそこそこある人です。マイホームもあって、特に節約なんてしなくても普段の生活でおカネに困ることなんてない。このような人は、老後の生活というものがどういうものか、そして退職後は誰でも収入がガクンと減ることをイメージできないのです。

 退職後はみんな年金生活に入り、収入がガクンと減ります。国が発表している標準的な夫婦の年金額は月22万円(平成28年度新規裁定者)、年収にすると260万円程度です。いま年収500万円であれば約半分、800万円であればおよそ3分の1に収入が減ります。いま年収が多い人ほど、このギャップに苦しむことになります。

 

人は一度上げた生活水準を下げることはなかなかできないものです。ですから、年金収入で足りない部分は貯蓄で補うしかありません。

 私はファイナンシャルプランナーとして多くの人の老後の資産形成の相談を受けますが、「老後が不安」という人はたくさんいます。しかし、「不安だ」と言いながらも漠然と「なんとかなる」と考えていて、具体的な貯蓄の計画を実行している人はほとんどいません。

 現役世代である今のうちから老後の生活をイメージし、計画的に老後の資金を貯めておかなければ、安心した老後生活を手に入れることはできません。

 老後の資金計画を立てるうえでまず考えなければいけないことは、次の2点です。

 ・老後の毎月の生活費を見積もる

 ・老後の定期的な収入を見積もる

■ 老後の生活にはいくらかかるの? 

 生命保険文化センターが発表した2013年度の「生活保障に関する調査」の速報値では、いわゆる年金生活者の家計を見ると、食費などの生活費の合計が25万円程度。旅行やレジャーなど、ゆとりある生活を送るには35.4万円が必要であると発表しています。

 よく「老後には1億円が必要」といわれることがあります。実際にゆとりある生活を送るために必要な1カ月の生活費を35.4万円とすると、65歳から25年間に必要な老後資金は1億0620万円となります。仮に老後を20年間と仮定しても8496万円となりますから、なるほど老後に1億円というのはウソではないことが実感できます。

 しかし、これはあくまでも「よそんち」の話だということです。実際には、60歳のときに住宅ローンがいくら残っているか、まだ教育費がかかる年齢の子どもがいるかなど、さまざまな要素によって毎月いくら必要になるかは異なります。

 大切なことは、ご自身の家計がどうかということです。特にいま家計簿や家計の収支がわかるような記録をつけていないというドンブリ家計の方は要注意です。まず、現在のおカネの出入りを確認するため、1カ月でも家計簿を続けてみましょう。いま毎月いくらかかっているかがわかるようになれば、老後の月の生活費も予測しやすくなります。

 

 

実際にご自身の毎月の老後の生活費をシミュレーションする際には、下記のようにカテゴリ分けしてみると、何におカネがかかっているかわかりやすいでしょう。

・食料費
・住居費
・光熱・水道費
・家具・家事用品
・被服および履物
・保健医療
・交通・通信
・教育
・教養娯楽
・交際費
・その他
・税金・社会保険料
■ 年金はもっともリターン率が大きい投資

 老後の収入源といえば、年金です。しかし、少子高齢化が進むこれからの日本では、「国の年金はあてにならない」という人もいますが、果たして本当にそうでしょうか? 

 そもそも国の年金は支え合いの仕組みなので損得で語るべきことではないのですが、それでも損得が気になるのが人情というもの。ちょっと日本に住むすべての人が加入義務を負う国民年金で損得を検証してみましょう。

 現在の国民年金保険料は1万6260円です。日本に住む20歳以上のすべての人が負担すべき金額です(厚生年金加入者の場合、厚生年金保険料に国民年金保険料が含まれています)。

 国民年金の保険料を480カ月、まったく未納なく納付すると老齢基礎年金満額が受給できます。この額は、78万0100円です。これが年間の受取額です。これに対して支払う保険料の合計は、780万4800円です。相当大きな金額ですね。

 支払った保険料を受け取り年金額で割ると損益分岐点となる年数がわかります。780万4800円÷78万0100円=10.0048年。つまり、受給開始から10年経過すると元が取れるという計算です。老齢基礎年金満額78万0100円を65歳から受け取りはじめると75歳で支払った保険料を回収し、それ以降は利息の受け取りとなります。

 仮に、年金を90歳まで25年間受け取るとすると、受け取り総額は1950万2500円です。これは月々1万6260円を年利6%で35年にわたって積み立てた元利合計とほぼ同額となります。資産運用をしたことがある人であれば、これがどれほどすごいことか理解できると思います。厚生年金についてもほぼ同じくらいの損益分岐点となっています。

 

老後は誰でも年金と貯蓄の取り崩しという二段構えの生活になります。そんな生活のなかで貯蓄は目減りしていく一方ですが、年金は亡くなるまで毎月安定した収入となります。やはり公的保険は頼りになる制度だと思います。老後の暮らしを安心なものにするためにも、まず国の制度である年金に関する知識を頭に入れてフル活用しましょう。

 ところで、あなたは自分がいくら年金をもらえるのかご存知でしょうか? 

 もし、知らないということであればすぐに自宅に届いているねんきん定期便を確認してみましょう。脱老後貧乏は、老後の収入、つまり自分がいくら年金をもらえるのかを把握することから始まります。

■ 年金だけでは老後生活は乗りきれない

 収入が高い人が勘違いしがちなのが、収入が高ければ年金もたくさんもらえると勘違いしている点です。確かに会社員であれば収入が上がればもらえる年金額は増えていきますが、それには上限があります。

 一般的な会社員が、退職後もらえる公的年金は国民年金と厚生年金です。国民年金は加入した年数により算出されるので、20歳から40年間まったく未納がなかったとしてもおよそ80万円。これは誰でも一緒です。

 一方、厚生年金は負担する保険料によって年金額が増えていきます。厚生年金の年間の年金額の算出は下記の式で計算できます。

標準報酬月額(見込み)× 5.481 ÷ 1000 × 厚生年金加入月数
※ただし標準報酬月額の上限は62万円
 たとえば、標準報酬月額30万円で30年間厚生年金に加入した(30年間の平均月収が30万円)とすると、59万1948円が年間の厚生年金額になり、国民年金80万円と合わせて、約140万円となります。

 では、仮に上限いっぱいの62万円で38年間働いたとするといくらになるのでしょうか? 

 標準報酬月額62万円で38年間厚生年金に加入した(38年間の平均月収が62万円)とすると、154万9588円が年間の厚生年金額になり、国民年金80万円と合わせて、約235万円となります(賞与は含まず)。

 すでにお気づきだと思いますが、どんな人でも働き始めてすぐに月収62万円ということはないでしょうから、実質的には普通に大学を卒業して働き始めた人であれば、上記のような235万円という数字になることはなく、必ずそれ以下になるということです。

 年金収入は夫と妻の2人分を合わせて考えるものだとしても、現在の年収が500万円であれ1000万円であれ、老後の収入がガクッと落ち、その不足分は貯蓄で補うしかないことは誰でも同じ状況であることが理解できると思います。

 ですから、まず

 ・老後の毎月の生活費を見積もる

 ・老後の定期的な収入を見積もる

 この2点をしっかり押さえて、不足する老後資金を割り出し、貯蓄計画を立てる。老後貧乏を脱するためには、まず「なんとかなる」という甘い算段を捨てて、行動を起こさなければなりません。

 

 

 

東洋経済オンライン 6月28日(火)

 

 

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