アメリカ人が老後資金をためるためにしていること

 

「老後の資金が不安。でも、資産運用ってどう始めたらいいか、分からない」そんな悩み、ありませんか? 7月下旬、東京都内で開催された楽天証券のセミナーでは、資産運用の最新事例やマイナス金利時代の資産運用について、金融界の専門家達が議論を交わしました。そのなかから、「資産運用の最新事例について~金融先進国の米国では何が起きているか~」の内容をお届けします。世帯の約4割が投資信託を保有している金融先進国、アメリカでは、どのように資産運用を行っているのでしょうか。そこから私達が学べることとは?



 「資産運用の最新事例について~金融先進国の米国では何が起きているか~」
パネラー:中桐啓貴(ガイア株式会社 代表取締役社長)
     沼田優子(明治大学国際日本学部特任准教授)
モデレーター:叶内文子(フリーアナウンサー)


■アメリカでは4割が投資信託で運用している


叶内文子さん 私は20年ほど株の番組をやっていますが、自分の老後を見据えた資産運用のこととなると、実は何もできていません。やはり、資産運用ってすべきですか?運用先進国といわれるアメリカでは、どうでしょうか。

沼田優子さん(以下、敬称略) アメリカは投資大国といわれ、家計の4割が投資信託を持っています。しかし別に、好きだから、得意だから、皆がやっているというわけではありません。アメリカの人達も、老後の不安から、運用を“しなければならない”、投資を“やらざるを得ない”、と感じています。

中桐啓貴さん(以下、敬称略) アメリカでは投資して資産を増やして、フロリダやハワイで優雅な老後生活を送る人が大勢います。そういう成功体験をしている人が身近にいるのは、日本とは異なりますね。

―― 日本では「投資」と聞くと、個別株の意識が強いです。アメリカではどうですか。

中桐 日本のシニアの人達は、「どこの株を持っている?」と、日本の個別株の話をすることが多いですよね。アメリカの場合、みんな自分に合ったポートフォリオを持っていて、それを友達同士で見せ合う文化があります。「私は株が3割、債券が7割だけど、君はどう?」という感じです。ポートフォリオを持ち長期的に分散投資をしていく、という意識が浸透しています。

―― やはり、ポートフォリオという考え方をすべきですか?

沼田 そうですね。そもそも、年金の運用は1つの株に集中投資するわけではありません。だから、年金の代わりに自分で運用するのであれば、ポートフォリオ全体で見ていく必要があります。ポートフォリオ全体を見て、リスク許容度や、何年投資したいのか、というのに合わせて、アセット・アロケーションをつくり、銘柄を選ぶ。その後、必要があれば、リバランスをする。アメリカでは確定拠出年金が発達してきたことも影響して、ポートフォリオ運用の基礎知識が身につくのだと思います。


―― 分散投資、という話も出ましたが。2008年の金融危機のときは、どれも下がって、「分散投資って本当に意味あるの?」という疑問の声も挙がりました。

中桐 1つ興味深いエピソードがあります。アメリカに、マゼランファンドというファンドがあって、1960年代に1万ドル投資したら、2000年ごろに20億円(※日本円換算で)になっているような、すごく成績のいいファンドでした。ところが、実際このファンドを持っていた人の成績を調べたところ、平均的なリターンは、なんとマイナスだったのです。何もせずに、ただずっと持っていれば、何十倍にもなっていたはずなのに。

―― なぜ、平均リターンがマイナスだったのですか?

中桐 マーケットが急落したときに、多くの人が怖くなって、自分が買った値段より下がったタイミングで売ってしまっていたのです。ですから、そういう行動をせずに、どうしたら長期できちんとリターンがとれるかを考えていく必要がある。その文脈で、「分散投資」という話になるのです。日本人でもアメリカ人でも、急落すると誰もが売りたくなるもの。ずっと投資をし続けるのは非常に難しいことなので、アメリカではラップ商品(※資産の運用管理を金融のプロに任せるサービス)が出てきたり、専門家に相談したりするスタイルになってきました。

沼田 そうですね。アメリカでは、ロボ・アドバイザー(※コンピューターが自動的に資産運用を行うサービス)やファンドラップというサービスが出てきて、ファンドマネジャーの役割を低コストで代替するようになってきました。分散投資はリスクを軽減するための一つの手法だと思います。年金の代わりと考えるので、そもそも、投資をやめるという選択肢はないとアメリカ人は考えている。「投資はやらねばならないもの」と考えると、「リスクはほどほどで、安心して眠りたい」と思う個人投資家もいます。そういう人は、お任せできるロボ・アドバイザーやファンドラップを使うのも一つの手。そういったものをやってみて、物足りなさを感じたら、卒業して自力で投資したり、対面の営業担当者をつけるようにしたり。いろんな選択肢があるのがアメリカですね。

 

 

■専門家アドバイスはロボ、対面、両立型の選択肢が


―― 長期投資をしっかり意識したほうがいいということですが、20代で始めるのか、50代で始めるのか、投資家の年齢によっても運用の仕方は変わってきますか。

沼田 年齢が若くて金融資産が少ない時期は、導入商品として機械的なサービスを使って、ある程度、資産がたまったら、次の一手を考えるといいと思います。アメリカでも、老後が近づくにつれて、あるいは自分の資産の桁が1つ上がると、急に不安になって専門家にアドバイスを求める人が増えるとの調査結果があります。アドバイスの形も色々。金融機関に全部任せるのも手だし、自分ですべて分析して、どうしても個人では手に入らない情報だけを専門家に聞く、確認するというのも一つ。

中桐 導入としてまず、個別銘柄を見るのではなくポートフォリオを持つということを、きちんと体験してほしいですね。10万円くらいから始めて1~2年、自分が選んだポートフォリオがどういう値動きをするのか見てみる。40~50代になるとリタイアが見えてくるので、ただ運用で資産を増やすだけでなく、増やしたお金をどうやって使っていくのかも考える必要があります。介護や相続の話も出てくるでしょう。そういうステージになったら、またポートフォリオを変える、というのがいいと思います。

沼田 アメリカでは、全世帯の4割が投資信託を持っている中で、46%は対面アドバイスを受けています。投資信託を持っている人のうち、確定拠出年金だけの人が40%いるので、自分自身の手だけで投資している人は1割もいないということ。90年代は株式ブームでしたが、このとき自分で投資してみた人が、ITバブル、金融危機を経て、「やはりアドバイスは必要」と感じて、アドバイスに回帰したのだと思います。アドバイスの受け方も、「ロボだけ」「ロボと、(人間との)対面の両方を使う」「対面だけ使う」と選択肢が増えてきています。

―― 日本では手数料を気にする人も多いですが、コストについてはどう考えたらいいでしょうか。

中桐 コストが安い投資信託に投資した人がもうかっているのかというと、それはまた違う話。中長期的に資産を増やした人は、コストだけでなく、長期で投資できる“仕組み作り”をきちんとやっています。今はスマホでも簡単に投資ができるので、何かあると即座に売ったり買ったりしたくなりがち。しかし、そうではなく、いかに長期で持ち続けるか。その仕組み作りが重要です。そこで、例えばラップファンドを持つのもいいでしょう。コストの安さだけで選んでしまうと、結局、その後、リバランスが面倒になってきたり、放ったらかしになったりしてしまうので、必ずしも、コストだけで決めないほうがいいと思います。

沼田 アメリカでは2008年金融危機の後、コストを下げるという文脈の中で、ロボ・アドバイザーが注目されました。アセット・アロケーション(資産配分)には引き続き力を入れるけれど、運用はETF(上場投資信託)でよい、その分コストを削減する、と考えて生まれたのがロボ・アドバイザーです。

 

 

■10年単位で考えることが大切


―― 私達が老後資金の形成を考えるうえで、一番気をつけるべきことは何ですか。

中桐 今後も10年に1回くらいはリーマン・ショックのようなことが起こる可能性が高い。なので、20年後、30年後を考えて、自分が今取れるリスクはどの程度なのかをきちんと判断して、大切な資産が想定内の動きをするようなロードマップを組むことが大切です。年齢や投資経験によって取れるリスクは異なるでしょう。もし、リタイア後はあまりリスクを取れないのであれば、保守的なものに変えるなど、10年単位くらいで、変えていくのがよいかと思います。そうすることで、中長期的に、安定的に資産を増やすことができると思います。

沼田 ゴールに向かって少しながらも進んでいるか、反対に向かって走っていないか、ということの確認を四半期ごとにするといいと思います。専門家のサービスを使って確認ができれば、「今は大変でも方向性は間違っていない、このまま踏ん張ろう」と考え、安心して眠れます。そしてもう一つ大事なのは、面倒くさがらないこと。投資が好きな人ばかりではない。けれど、老後は誰にでも等しくやってくる。ですから途中で投げ出さずに、自分が続けられるやり方を探していくのが大切ですね。

中桐 日本ではまだ、専門家に相談する文化がなじんでいませんが、例えば、かかりつけの医者が近くにいると安心ですよね。同じように、かかりつけのお金の専門家に、中長期的にいろんな相談ができるといいと思います。急落して売りたくなっても、その前にひとこと相談して「これは大丈夫」と言ってもらうことによって、長期投資が継続できます。ロボを使うのもいいし、人間を使ってもいい。両方をうまく使い分けて、資産形成していくといいと思います。

沼田 自分がしっくりくる投資の仕方が何かは、色々試してみるのが一番です。仕事が忙しくなったとか、自分の状況によっても、好みの方法は変わっていきます。「投資はこうあるべき」と思わずに、色々試すなかで、合うものを探していってみてください。

(取材・文/柳澤明郁)

 

 

日経DUAL 9月7日(水)